第40話 挨拶回り?
食事が終わり、私とラウロは自室へと戻る。
「アサリア様、申し訳ありません」
「ん? 何がかしら?」
「先程、俺が感情のままに殺気を出してしまったので、アサリア様にご迷惑をかけてしまいました」
部屋で座っている私の前で、ラウロが頭を下げた。
というか、あれは本当に殺気だったのね。
まあ別にあれくらいは全く問題なかったんだけど。
むしろ面倒なことになりそうなものをぶった斬ってくれたので、ありがたいくらいだった。
「大丈夫よ、問題ないわ。それにラウロがあんなに過剰反応するほど、私の専属騎士であることを誇りに思ってくれているようで、嬉しく思うわ」
「っ……そうですか、それならよかったです」
少し照れるように顔を背けたラウロ。
私の専属騎士を渡したくない、と思ってあの殺気を出したのだろう。
本当に番犬のようで可愛らしいと感じるわね。
だけどまあ、それにしてもあの殺気はやり過ぎだかもしれないけど。
私とラウロが部屋で休んでいると、ドアがノックされてメイドのマイミが入ってきた。
「アサリア様、公爵夫人がお呼びです」
「お母様が? わかったわ」
私とラウロは部屋を出て、マイミに案内されてお母様が待つ部屋へと向かう。
砦の中では一際綺麗な部屋の中で、ソファにお母様が座っていて、ローテーブルを挟んだ対面にはイヴァンお兄様もいた。
お兄様もお母様に呼ばれたのかしら?
「アサリア、よく来たわね」
「お母様、お元気そうで何よりです」
メリッサ・シュタ・スペンサー公爵夫人、私のお母様。
家族で唯一、髪色が黒いけど、とても美しいサラサラとした髪。
顔立ちは私に似て、というよりも私がお母様に似ていて、目が釣り上がっていて美人寄りだ。
三十代後半なのだけれど、若い時とほとんど見た目が変わっていないくらい美しさを保っている。
凛とした美しさがあり、妖艶な魅力もあって、お母様ながらとても綺麗な女性だと思う。
「ええ、あなたもね。それで、そこの男性がアサリアの専属騎士かしら?」
久しぶりに会ったお母様、ラウロと会うのは初めてだ。
「そうです。ラウロ、ご挨拶を」
「はい。アサリア様の専属騎士を務めているラウロ・アパジルです。よろしくお願いいたします」
丁寧にお辞儀をするラウロを、お母様が頭から足先まで眺める。
「……アサリアはこんな可愛らしい子が好みなの?」
「えっ……」
お母様の言葉に、ラウロが疑問の声を上げたのが聞こえた。
はぁ、またお母様の悪い癖が始まったというか……。
「お母様、私は専属騎士を容姿の好みで選んでいません」
「あら、そうなの? だけど容姿も大事じゃない? 四六時中一緒にいるわけでしょう?」
お母様は公爵夫人として完璧に社交界で振る舞うが、私達家族に対しては結構適当というか、貴族などではなく街の若い女性のような恋愛話などを好む。
お兄様も「また始まった……」というような顔をしながら目を瞑っている。
「それにアサリアが自分から見つけてきた子でしょう? 容姿で選んだんじゃないのかしら?」
……前にお茶会で絡んできたエイラ嬢とほぼ同じことを言ってきているけど。
お母様は純粋な興味で、嫌味な感じは全くない。だからこそ少し面倒だけど。
「違います。確かにラウロは容姿も非常に整っていますが、それで専属騎士に私やお兄様が推薦するわけないでしょう」
ラウロがピクっと反応をした気がするけど、話を続ける。
「確かに、イヴァンが妹のアサリアの専属騎士にそんな人を推薦するわけないわね」
「……はい、公爵令嬢の専属騎士に相応しい者を見極めたつもりです」
「ふふっ、そうね。妹のために兄のあなたが選んだのなら、問題はないでしょうね」
「母上、それ以上は言わないでいただきたい」
「ええ、わかってるわ。あなたも恥ずかしがり屋さんね」
ん? なぜお兄様が恥ずかしがり屋になったのだろうか?
会話の流れがよくわからなかったわね。
「それに母上、あなたならラウロの強さがわかるはずです」
「ええ、彼はすごいわ。全盛期のあの人よりも強くなるのは確実ね」
お母様がラウロを見ながらそう断言した。
実力が認められて公爵夫人になったお母様は、私達の誰よりも魔力を操るのが上手く、魔力を見抜く観察力もずば抜けている。
そのお母様に現当主のお父様よりも強くなる、と言われたのね、ラウロは。
ラウロはお母様の言葉が、どれほどの賞賛かはわからないと思うけど。
「ラウロさん、アサリアをよろしくね。傷一つでもつけたら、あなたのアソコをもぎ取るつもりでいてね」
「かしこまりました」
……えっ、お母様、なんかエグいこと言ってなかった?
それに全く臆さずに即答するラウロもどういうことかしら?
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。イヴァンとアサリアを呼んだ理由だけど」
話題が変わったので、さっきのエグい会話について質問が出来なくなってしまった。
「これからあなた達には、他の砦に挨拶回りをしてもらうわ」
「挨拶回り、ですか?」
お兄様が首を傾げた。
私も他の砦に挨拶回りなど、聞いたことがない。
少なくとも、回帰する前はそんなのやったことがなかった。
「ええ、他の砦に行くというよりも、他の公爵家へ挨拶するという感じかしら」
公爵家同士が挨拶をするのは、社交界などでは当然することだが、それぞれで担当している砦へ行くのは初めてのことだ。
「なぜいきなりそんなことを?」
「私も面倒だと思ったけど、皇室からのお達しでね。この間、アサリアが東の砦、モーデネス公爵家を助けに行ったでしょう?」
「はい、ラウロと共に行きました」
「そう、それをキッカケに皇室が四大公爵同士、もっと仲良くなって帝国を共に守ってください、って感じね」
なるほど、確かに私が皇室薔薇勲章を頂いたのは公爵家同士で助け合ったからだ。
皇室、特に現在の皇帝陛下は四大公爵をとても尊重していて、四大公爵がどれほど帝国において大事かがわかっている。
……それなのになぜ第一皇子のルイス皇太子は、スペンサー公爵家を下だと思っているのかしら。
皇帝陛下が第一皇子への教育を失敗したのかしら?
「皇室からのお達しをさすがに無視するわけにはいかないから、あなた達が他の砦に挨拶をしに行くことになったの。面倒だと思うけど、よろしくお願いするわ」
「かしこまりました、お母様」
「俺は問題ありません、母上」
私とお兄様が頷いて、お母様も笑みを浮かべる。
「ええ、それじゃあ今回はまず東のモーデネス公爵家と、西のアイギス公爵家へそれぞれ行ってもらおうと思うわ」
私とお兄様が一緒に行くわけじゃなく、それぞれ違う砦に行くのね。
「どっちがいいとかあるかしら?」
「私は西のアイギス公爵家がいいです」
お母様の言葉に、私が即答した。
東のモーデネス公爵家には、アレクシス様がいる。
別に嫌いとかではないけど……あの人にはなぜか求婚されている。
求婚されてから一度も会ってないので、少し会うのが面倒な気がするから、あまり東の砦は行きたくない。
「そう? じゃあイヴァンが東のモーデネス公爵家でいい?」
「はい、問題ありません」
お兄様は確か、アレクシス様とお知り合いだった気がする。
二人とも公爵家の嫡男で次期当主なので、仲良くなって損はないだろう。
むしろ今回の皇室の狙いと、非常に合っているはずだ。
「じゃあ明日の朝から出発をお願いね」
お母様にそう言われて、私とお兄様は「はい」と返事をした。
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