第10話 聖騎士ラウロ
私が回帰する前、つまり二年後の世界に、ラウロという聖騎士がいた。
聖騎士という名誉ある職に就いたラウロ、聖騎士というのは聖女を守る騎士。
つまり、二年後にラウロはあの女、聖女オリーネを守る騎士となるのだ。
そんな大事な職に就くというのに、ラウロは出生などが明かされていなかった。
普通ならば騎士の貴族の家系などがやるところを、オリーネが無理矢理ラウロを側に置いたのだ。
最初の方は反発があったが、ラウロはとても強かった。
それこそ、小さな頃から訓練を受けている騎士が何人がかりでも勝てないほど。
とても強い力があったのと、ルイス皇太子の一声でラウロは聖騎士となった……と聞いたことがある。
聖女オリーネのお気に入りで、ルイス皇太子からも推薦された聖騎士。
まあ推薦された理由は、どうせオリーネだけど。
まさかそんな聖騎士ラウロと、こんなところで出会うとは。
確かに見覚えがあるはずだ、回帰する前にオリーネの側に仕えていたから。
しっかり思い出せていなかったけど、今思い出した。
茶髪の短い髪で、とても身長が高くガタイがいい。
顔立ちも整っていて美少年という感じだが、剣を振るえばその顔とは似合わず、すごい強い力で他を圧倒する。
一度だけ魔獣と戦っているところを見たけど、剛力というのはまさにラウロのためにある言葉だったわね。
「ラ、ラウロね……あなたはここで何をしているの?」
「何をって……男爵の男に絡まれていましたが」
「あ、ああ、そうだったわね」
いけない、驚きすぎて変なことを聞いてしまったわ。
だけどラウロって、もともと普通に平民だったのね。
どこかの貴族の隠し子ではないのか、と噂されていたけど。
「ラウロ、あなたってどこに住んでるのかしら? 服がボロボロだけど、あの男爵にやられたの?」
「この辺りの路地裏の家を間借りして、弟と妹の三人で暮らしてます。服がボロボロなのはもともとです」
「両親は?」
「いません、捨て子なので」
「あら、そうなのね。弟さんと妹さんも?」
「……はい、双子の弟と妹は俺が拾いました」
服もまともに変えないとなると、生活がどれだけ厳しいかが伺える。
双子の弟妹さんもおそらく血が繋がってないし、まだ幼くて働けていないのでしょうね。
「なぜそんなことを聞くのですか?」
「……あなた、私のもとで働かない?」
「っ、俺が?」
「ええ、そうよ」
これは、とってもチャンスでは?
「ちょ、アサリア様!? 何を言ってるんですか!?」
「あら、マイミ、戻ってきたのね」
さっきまで衛兵とピッドル男爵について話していて、ようやく男爵が連行されたようだ。
「こんな身元不明の人を、公爵家は雇いませんよ! それにどこで働かせるんですか? 庭師ですか?」
「私の騎士よ、専属のね」
「騎士!? しかもアサリア様の専属!?」
「騎士……俺が?」
マイミがすごい驚いた顔をしていて、ラウロも不思議そうに首を傾げている。
だけどこのチャンスは逃したくない。
オリーネの未来の聖騎士を、私のものに出来る可能性があるわ。
「あっ、オリーネって名前に聞き覚えは? オリーネ・テル・ディアヌ男爵令嬢よ」
もうすでに会っていたりはするのかしら?
「オリーネという方は知りませんが、ディアヌ男爵は俺が働いている運輸店をよく利用する方だった気がします」
「あら、そうなのね」
そこ繋がりでオリーネと出会ったのかしら?
何かしらのタイミングでラウロの力を見て、スカウトしたっていう感じかしらね。
「あなた、力持ちでしょ?」
「まあそうですけど……なぜわかるんですか?」
「さっき男爵の男に殴られてビクともしてなかったから。どう見ても身体が強そうだし、それに……あなた、魔力を操っているわね」
「魔力? なんですかそれ?」
「っ、ふふ、知らないのね」
普通は魔力を操るのはとてつもない練習がいるし、魔力を持っていても操るのが下手だったら宝の持ち腐れだ。
しかしラウロは魔力という概念すら知らないのに、無意識に操って自身の身体の強化をしている。
天才、まさにその言葉が似合う男ね。
「あなたなら私の騎士になれる。公爵家の令嬢の専属騎士に」
「俺が? 剣など一度も握ったこともありませんが」
「大丈夫、あなたなら数ヶ月も練習すればそこらの騎士よりも強くなれるわ」
「なぜそんな自信が?」
「うーん、勘よ」
二年後の記憶がある、とは言えないからね。
「もちろん、私のもとで騎士となるのならそれ相応の給金、待遇は用意するわ。そんなボロボロの服なんか二度と着ないくらいのね」
「……弟と妹はどうなるのでしょうか」
「あなた達のための家を用意するわ。間取りじゃなくて、大きな家を買い取ってプレゼントしてあげる。私のもとに来るって決めた瞬間にね」
「っ、本当ですか?」
「ええ、もちろん。どう? 来る気になった?」
「……正直、ここまで良い待遇だと怖いんですが」
まあ、そうよね。
だけどラウロには、それだけの価値がある。
もちろん騎士としてとても優秀なのはもちろんのこと、オリーネの未来の聖騎士を奪えるという価値も。
「俺を騙そうとしているわけじゃ……」
「騙す? 私があなたを騙して何を手に入れるのかしら?」
「……何か人身売買とか、臓器売買とか」
「あなた、意外とエグい発想をしてるわね……」
しかも無表情で言うから、本気の考えというのが伝わってくるわ。
「名誉あるスペンサー公爵家がそんなことするわけないでしょ。ただ私はあなたの才能を見抜いて、雇おうとしているだけよ」
「……そう、ですか」
「どう? こんなチャンス、二度とないかもしれないわよ?」
本当はあるけどね、聖女の護衛をする聖騎士になれるっていうチャンスが。
だけどあんな性悪聖女よりも、私が雇った方が絶対に待遇もいいわ。
「……すぐには決められません。弟や妹にも話さないと」
「あら、そう? じゃあ今から話に行きましょう」
「えっ、今から?」
「善は急げ、っていうじゃない。あなたの家に案内してくれる?」
「だけど俺の家、公爵令嬢を招待出来るほど綺麗じゃ……」
「全く構わないわ。スペンサー公爵令嬢は、魔獣の血で染められた地面でも優雅にお茶をするのよ?」
私がニコッと笑ってラウロにそう言った。
回帰した後は、まだ魔獣を一度も殺してないけど。
なんなら回帰する前でも、血で染められた地面でお茶なんてしたことないわね。
野戦食は食べたことあるわ、味がしない硬いやつ。
「……ふっ、そうですか。助けられたお礼も出来てないので、粗茶でよければお出しします」
「ええ、ありがとう」
「ほ、本当に行くんですか、アサリア様……!」
マイミが側でそう言ったけど、私は無視してラウロの後についていった。
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