019 魂喰者(前編)


「その……『魂喰者ソウル・イーター』って、何?」


 彼女の問いに、エミリアはポカンと口を開けた。


「お、おう?そうか、それも知らなかったのか。これはすまなかったね。

 コホン、では少しレクチャーといこうか。うーん、まずは、そうだな……」


エミリアは妙に改まった態度で説明をし始める。


「この世界には様々な武器がある。弓、槍、剣、斧、槌、鎌……。古来より人々が使うそれらの武器に魔法が宿った武器が『魔法武器』だが、その中で最上級と言われる武具が霊魂破壊兵器『ソウル・ブレイカー』だ。」

「霊魂破壊兵器?」

「ああ。魂を破壊する武器だ。

 肉体を破壊せずその魂──精神だけを破壊する魔法の兵器。それらはユグドラシル語で『ソウル・ブレイカー』と呼ばれている。この兵器によって肉体を斬りつけられると、見た目──肉体そのものは外傷を負わないが、その人物の精神活動の一切が停止・破壊される。

 まぁ、ピンと来ないかもしれないけれど、簡単に言っちまえば“確殺兵器”なんだ。」


その言葉に、フレイヤの背筋に寒気が走る。


「え……それって、確実に相手を殺してしまう、ということ?」

「ああ、その通りさ。

 普通、生き物はよっぽど大きな怪我を負わなければ、傷を受けただけでは死なない。たとえ手足の一本失ったって、直ぐには死なない。

 だけど、『ソウル・ブレイカー』は違う。

 こいつは魂そのものに傷を負わせるため、かすっただけでも致命傷になる。イチかゼロの武器だ。針で指先を少し刺してしまっても人は死なないが、その針が『ソウル・ブレイカー』だったなら、針が指に刺さったその瞬間にその人物は死んでいる。」

「そ、そんな恐ろしい武器が、この世にはあるの!?」

「ああ。創り出した奴の名前は分からないが、千年前のプリームスって魔術師がその原型を創ったと言われている。全く、とんでもないものを編み出したものだよ、昔の人間は。」


エミリアはそういって肩を竦めて見せた。


「──そしてその武器を持つ者を、俺達は『魂喰者ソウル・イーター』と呼んでいる。」


 コウスケが地図を見たまま独り言のように言う。


「……『魂喰者ソウル・イーター』は、この世界で頂点に立つ存在だ。

 この世界は魔法と武力が全て。政治、経済、軍事に産業……ありとあらゆる方面でこれらが必要になる世界で、相手を確実に殺せる魔法と武力を持っている者は脅威であり、絶対的な存在になる。だからアクア連邦各国将軍たち、テッラ王国の『聖騎士団』の団長、そして俺達を追っている『ヴァルキリーズ』の騎士部隊隊長や副隊長も、皆『魂喰者ソウル・イーター』で構成されている。」

「そんな!!」


フレイヤは青ざめた顔をして二人に言った。


「そんな強い人たちから、そんな恐ろしい武器からどうやって身を守るの?わたし、魔法を防ぐ手段なんて知らないわ。」

「たしかに、『魂喰者ソウル・イーター』は強い。彼らとの戦いは常に紙一重の攻防が続く死闘になるものだ。けど──」


エミリアは一呼吸置き、フレイヤに言った。


「魂を破壊するっていっても、無条件で破壊できるわけじゃないんだ。」

「どういうこと?」

「『ソウル・ブレイカー』は確かに兵器だけど、魂を破壊するのはあくまで武器によって発動する“魔法”なのさ。その魔法は今じゃユグドラシル語で『ソウル・ブレイク』って呼ばれている代物だ。魂を破壊する魔法、と思えばいい。」

「魂を破壊する魔法……」

「ああ。そして『ソウル・ブレイク』って魔法は相手の肉体に直接触れなければ効果がなくてね。服の上から『ソウル・ブレイク』を発動させても、全く意味がないのさ。

 しかも『ソウル・ブレイカー』は基本的に肉体を破壊しない──つまり裏を返せば、んだ。

 こいつを弓の『ソウル・ブレイカー』を例にとって説明すると、弓のソウル・ブレイカーの『ソウル・ブレイク』は、魔法でできた魔力の塊としての“矢“に相当する。この“魔法の矢“は服を貫通することはできないから、相手を殺そうと思ったら、矢を肌が露出しているところに当てる必要があるってことになる。

 要は、『ソウル・ブレイカー』は肉体の露出していない箇所では、完全な“なまくら”になってしまうのさ。」

「じゃ、じゃあ、服を着ていれば──もしくは、全身布で覆っていれば、魂が破壊されることはない、ということなの?」

「ああ。基本は、ね。」


 フレイヤはあの全身真黒な布で覆われた女を思い出した。あの人が黒い布で全身を覆っていたのは、単純に闇に紛れるだけではなく、その『ソウル・ブレイク』を危惧したが故の対策なのかもしれない、と。


「ううーん。まだ理解が追い付いていないわ。それに”基本は”って、どういうことなのかしら?」

「ええと、そうだな。」


 エミリアは腕を組み、フレイヤに言った。


「『ソウル・マジック』って知っているかい?」

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