二話

 俺の元へと訪ねてきたのは、明眸皓歯めいぼうこうし氷肌玉骨ひょうきぎょっこつの、所謂いわゆる絶世の美女というやつだ。

 彼女は訪ねるなり俺の目を見ると、己の口元で何かを囁いた。

 生憎、読唇術などそうそう持ち合わせていない俺はその囁きが気になりつつも、先ず彼女の突然の訪問に度肝を抜かしていた。

 いくら美人であるとはいえ彼女は、魔王ガルヅィエ・リゲルの支配下……その士官の第五官、ミンデローナだったのだから。

 彼女の功績はこの世界の人間にとって畏怖嫌厭の感情を狩り立たせる物として、よく知られたものだった。

 魔王の命令一つで国を一つ壊滅させる程の戦力をその身に持ち合わせる彼女は、世界を滅ぼしかねない脅威として伝えられていたからだ。

 それはそうと……そんな彼女が、なぜ俺の家なんかに訪ねてきたのだろう?

 疑問に思った俺は、彼女に向けて問いかけた。

「なぜ貴女が、俺の家なんかに?」

 俺の問いかけを聞くと彼女は顔を上げて俺の目を見つめる。

「そうですね……。」

 彼女は微笑むと、次いでまた口を開いた。

「外で走ってみてください。そうすれば理由が分かる筈ですよ。」

 

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