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しかしながら、高性能AI同士が刻々と状況を変化させながら〈恋愛〉をするというのは何故なのだろう。通勤電車の中、俺はぼんやりとそんなことを考える。条件から相手を導き出し、更にいくつかの要素から今後うまくやっていけるかどうかの答えを算出することなんて、今の技術であれば一瞬でできそうなものである。
サーバの負荷の問題だろうか。それもある。だが、それでは折れ線グラフであることへの説明がつかない。
マッチングAIの目的は二人の人間を結婚させることにある。その目的に向かった時、親密度の停滞もしくは後退(グラフでいう下降だ)は全く不要である。ゲームオーバーの可能性をちらつかせ、スリルを味わわせる必要などないのだ。だが、このアプリにはそれがある。設計上の欠陥とは思えない。何らかの意図があるように思えてならない。
日がな一日、仕事が暇だったことも手伝って俺は考え続けた。そうして帰りの電車の中で、ある答えにたどり着いた。
アバターの情報は、現実の俺に合わせてリアルタイムで変化しているのではないか。
つまり、俺が新しい趣味を始めたらアバターにも反映されるといった風に、日常の一挙手一投足が仮想の恋愛に常に影響し続けているというわけだ。あり得ない話ではない。さすがに頭の中まで覘かれるような仕組みはないだろうが、ネットでの検索履歴ぐらいなら参照はできるだろう。現に街で見かける個人広告はそうした仕組みで成り立っている。それは、完全には的を射てはいないまでも、一瞬だが意識に引っ掛かる程度の精度を持っている。俺と全然関係のない情報が読み取られているというわけではないのだ。或いは、検索履歴以外の、こちらが及びも付かない情報まで参照されているのかもしれないが。
この仮説を実証すべく、一つ実験をしてみたくなった。家のPCでスクリプトを組む。画像検索用の簡単なものだ。簡単だが、人力では何ヶ月も掛かるような量のデータを一瞬で引っ張ってこられる。こいつに猫の画像を集めさせる。スクリプトは瞬く間に、ネットに漂う古今東西の猫に関する画像を一覧化する。中にはいくつか目を引くものもあったが、基本的には興味はない。俺は犬も猫もどちらも好きだ。だが、情報上の人格としては、猫好きとして判断されているはずだ。
アプリの折れ線グラフを見ると、微増ながらも上昇していた彼女との親密度が急降下を始めた。猫の画像を検索した時刻と数分の誤差しかない。ほとんど垂直と言っていいほど親密度は減っていく。俺は慌てて、同じスクリプトで今度は犬の画像を検索した。念を入れ、犬種ごとの検索も掛けた。危うく0に触れかけた折れ線は、寸でのところで上昇に転じた。
この下降と上昇が、他の要因で起きたとは考えにくい。今の実験のせいでないとすれば、とっくにこの〈恋愛〉は終わっているはずだ。
恋愛は代理で行われる。だが、それが成就するか否かは俺の心がけに掛かっている。これを窮屈ととるか、希望ととるか。水に垂らした二色のインクのように、俺の中にはどちらもあった。
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