第2話

急行列車にとび乗ってから数分がすぎた。


僕はその間、放心状態。ただぼんやり、緑と住宅地が交互に流れる景色をながめていた。

ようやく呼吸もおち着き、これまでの経緯をふりかえる。


僕は姉さんの知り合いの市議会議員に対し書類を返送するよう、彼女から指示を受けていた。


だけど僕はそのことをすっかり忘れていたのだ。


そして書類の返送を忘れたのは、今回で3度目になる。

とうとう姉さんはそのことに対してブチギレたのだ。


――お前、今後は私の許可なしに外出するな


いくらなんでもこの一言が、許せなかった。


まるで僕の喉奥に腕を突っこまれたかのような気持ちわるさだった。


どこまであの人の召使いをやらなきゃいけないんだ。

いままで溜まっていたストレスが、とうとうはちきれた瞬間だった。


みやま姉さんは今年25歳になったばかり。

だけど全国的にも有名で、関東地方では絶大な人的ネットワークをもっている。


それはどうしてか?


なぜなら彼女の天才的な実力が、僕たちの住むA市を横浜市・川崎市に次ぐ神奈川県第三の都市にのしあがらせたから。

たった5年程度でそれをなしとげたのだ。


もともと地域活性化に興味をもっていた彼女。

両親が死んでしばらくしてから、生活が苦しくなりだした。それをを機に一念発起して、まずショッピングモールの経営者と懇意になった。

たぶん本人の美貌をふんだんに活用したのだろう。


あの経営者、明らかに姉さんにデレデレだった。


その光景を間近で眺めさせられたときの、心がひねられたような気持ち。正直なところ、あまり思いだしたくない。

ドアの窓ガラスにぼんやり映る自分をグッと睨みつける。


やがて彼女は地元の議員と協力して大型ショッピングモールを街に誘致した。

そして同時に地元商店の分店を、市に補助金を出させてモールにつくらせる。そうすることで地元商店の壊滅を防いだ。


さらにA市を観光地化することで、A市にとってビジネス的な成功ももたらした。


結果的に彼女へ協力した市議会の株も急上昇したというわけだ。

もはや市議会を掌握したみやま姉は、市長よりも発言力のある人物となっている。


こうして市議会議員団を配下におさめた姉さん。そして彼ら彼女らに、中央にいる人たちのスキャンダルを調べあげさせた。

そのスキャンダルとさらに彼女の美貌が、ここ20年以上にわたって意地でもお金を出したがらない中央省庁から資金をかっさらっていったのだ。


彼女の太ももやふくらはぎをマッサージしてきた日常が懐かしい。

――おいしいお肉に育ちますように


いつしか彼女はまだ中学生だった僕を、秘書として扱うようになった。

最初は僕も新鮮な気持ちで彼女と一緒にはたらいていた。


だけど――


20歳になった彼女は、お酒に手を出す。


それ以来、姉さんは変貌してしまったのだった――


――絶対に逃げきる。


流れる外の景色に、固く誓った。

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