燦々々爽やか太陽

家族団欒

 新たに鍵を設置し、安寧をもたらす南京錠の鍵を左手でこねくり回しながら、家族四人で朝食を取っていた。



 「父さんも母さんもどこに行ってたんだ?」



 月ちゃんと仲直りをし、その仲をやっぱり見直そうと決めた日の朝。

 そういえばあの日は両親ともに不在だったなと疑問に思い、僕は両親に聞いた。



「ああ、お隣の田村さんがな、急に越すことになってな。送別会で出掛けていた」


「もう息子さんも出て行って長いでしょ? だから二階建てなんていらないからマンションに住むそうよ。良い条件で売れたって」



 父、神野文明と母、ゆりはそう答えた。ここら一帯は建売型の庭付きの一軒家がひしめいていて、だいたい二階建てばかりだ。



「マンション…確かに平家建みたいなものか。老夫婦ならその方が良いのかもな」



 確かに子供がいる時は良いが、年老いた時、二世帯じゃないと持て余すか。階段も辛くなるだろうし。



「えーおじいちゃんおばあちゃんのお別れ会したの〜呼んでよぉ」


「お前は揺すらないタカリをするだけだろ」



 僕はあまり面識はないが、妹はよくお隣にお邪魔していた。断りの茶番を入れつつ、お小遣いを度々もらっていた。



「にいちゃん、さいてー。ほんと人の気持ちがわかんないんだから。単純に寂しいってこと、なんでわかんないかな」


「ごめんね、風ちゃん。お食事会はお座敷だし、和食という名のお酒のアテばかりだったし、二人とも居心地悪いだろうってパパと話し合って決めたの。町内会の人もいっぱいいたのよ。お店も予約制だったしね」



「そっかー、残念…お隣ってもう決まってるの? 住む人」


「多分ね。でも売れたと言ってもリフォームだってあるだろうし、まだまだ来ないんじゃないかしら。あ、そうだ。文雄、お弁当聞いた? 黙っててごめんね。月世ちゃん、文雄に食べて欲しいんだって。あんなに健気に頼まれたらもう。ママ痺れちゃって。憧れだったのよ。幼馴染の手作りお弁当かぁって。私には、いなかったから…」


「ゆりさんや。それやめないかい?」



「そうだ。それにそれは健気じゃない。狂気だ。相手は身体を作りかぁッい! 風花…お前…」


「にいちゃん、早く食べなよ」



 こいつ、僕の太腿に箸をブッ刺してきた。ヒドイ。僕が先に刺すはずだった…いやBSSはもういいか。とにかく躊躇ないな、こいつ。



「そうだぞ、文雄。それに女性は大事に。この国の掟だ。そして幼馴染はもっと大事に。この国の重要な掟だ。俺も欲しかった」


「…まあ大陸と違って太古の昔からそうだったが…幼馴染は…いやそんな話はしていない」



 父はたまによくわからない事を口にする。だいたい母が意味深な事を言った時に限ってだ。何があったかは聞いていない。


 それに昨日の妹からの親子ダブルエロバレ発言から、僕は少しぎこちない。気にし過ぎか。



「でも、狂気って逃げられないのよねぇ…幼馴染って本当に厄介だから…」


「ゆりさんや、それやめないかい? はぁはぁ」


「……」


「もーいいじゃん。ほら食べたら行くよ! 途中まで一緒なんだからしっかりしてよね。あー夜が楽しみだなぁ…まだまん丸かなぁ…」



 妹は家族との朝の団欒の最中だというのに恍惚の表情を浮かべていた。しっかりしないといけないのはお前の顔だ。


 その家族の団欒だが、父は苦い顔に若干の興奮が見え、母は若かりし頃の思い出に浸りつつ父を横目で煽ってる。妹は月に思いを馳せえへえへ言ってる。


 きっつ。駄目だ。狂う。


 今夜も絶対早く寝よう。


 それよりこいつだ。



「…風花。お前、絶対月光浴する気だろ。裸で。忍び込むなよ。裸で」


「そそそ、そんなことするわけないでしょ! この変態! ヘタレ童貞! 勝ち組!」



 勝ち組ってどんな罵倒なんだ。


 それに童貞は別に良いだろ。


 いや、裸月光浴はお前の昔からの趣味だろ。今更取り繕うな。絶対気持ち良いからって昔誘ってきたこともあっただろ。


 なのに変態って、ヒドイだろ。


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