[幕間]兄妹
月ちゃんを家まで送り届け、家の玄関に座り、ボーっと夜空を眺めていたら少し遅くなってしまった。
「ただいま」
「にいちゃん、おかえりー。遅かったねー。あれれ、何で無視? 反抗期がついにですか? ねーねー嬉しかったでしょ、月ねー様の手料理。どんなだった? ねーねー美味しかった? 甘々? 不味かったなんて言ったらブッコロだから。月に土下座が基本姿勢だから」
「狂信者め」
妹の神野風花。中学二年だが、すでにスタイルは大人だ。学校ではお淑やかに振る舞っているらしいが、家での言動は小学生の頃から変わっていない。
黒髪ふんわりセミロング、大正時代の眼鏡みたいな伊達眼鏡をいつもしている。
こいつも、裏表のある、月の信徒だ。
「何何、厨二? ってかあんな可愛い月ねー様の手料理なんて食べれないんだからね! にいちゃんは幸福がわかってないよ! あーんとかされてみたい…」
厨二はお前だ。目の前で祈るな。
幸福か…最近、何だかわからなくなってしまった。とりあえず今の目標は殴られない事とゴッドハンド呼びを防ぐ事だ。これがある限り幸福は限りなく遠い。
「…それよりお金、抜いたの戻しとけよ」
「? 必要ないよ?」
「…一応聞く。なぜだ」
「こほん。えー、この度、神野家と柊家でとある幸せな契約が結ばれてしまったのです。あれは月明かりが優しく降り注ぐ静かな夜のことでし…」
「もうわかった。それは悪魔との契約だ。破棄する。相手は体を作り替えると言っていた」
あの思い出の中の月ちゃんが、あんな風に脅してくるとは…それに嘘告が嘘。抜け殻には興味ないから、か。いや…やっぱりまだ消化しきれていないな。このまま攻勢に出られるとまずい気がする。
破棄していったん距離を置きたい。考える時間が欲しい。
「駄目だよにいちゃん。この場合、上位天使お母様と同じく上位天使月ねー様との間に結ばれた契約なのです。下級悪魔ごときに神聖防壁は突破出来ないのです」
「その三文芝居に一応付き合うが、下級悪魔とは?」
「にいちゃんとパパ」
「お前は?」
「ふっ、しけた質問だぜ。そんなのパパとママの子なんだから半魔に決まってるじゃん。バカだなあ。にいちゃんは。天使のかわいさと悪魔の格好よさ。それがわたし! あ、ちょっとどこ行くの! 詳しい契約内容まだ言ってないよ!」
聞いた僕が辛くなるとは。妹萌えだけは未だにわからないジャンルだ。
「いろいろ破棄だ。心臓はもう何回も潰されている。破棄に足るくらいきっちり対価は払った」
「にいちゃん、そんなにも月ねー様のことを…う、う、う、う…」
「…そうだ」
「月ねー様は下級悪魔には渡さないわ!」
こいつ、目がマジだ。作ってない。そういえば昔からギャルゲばっかしてたな、こいつ。
「お前とも破棄だ」
「え? とっくに破棄されてるけど?」
「ほう。なぜだ」
「いや、あんなエロい本をパパとにいちゃん持ってるんだもん。昔はわかんなかったけどさ。最低だよ。何さ、あの展開。だいたいさあ女の子はそんな簡単にはイカな…んんッ! 最低だよ! 月ねー様にしたら許さないんだからね!」
パラパラ読みじゃなく読み込んでるだと。しかも聞きたくもない事をチラ聞かせしやがって。ヒドイ。
「…そりゃ悪いとは思ったけどさ。気になるじゃん。引き出しに鍵かかってたら。思考がパパそっくりだよ。隠す場所も、鍵の場所も」
「…」
「だから部屋のドアの鍵変えたからね! もうそんなの読まないでもっと現実みなよ! いつ入るかわかんないからね! 気まずいのはごめんだからね!」
「…机の2段目の引き出しの裏」
だがお前がわかるという事は、僕にもわかるという事だ。
「! 何…何が言いたいの」
「いや、何も。人の趣味にケチをつける、なんてことは僕はしない。残念ながらお前とも思考パターンは似ているようだ。とっくに兄妹関係は破棄されていたようだが、僕が気付いたのは最近だ。これはいったいどういうことだろうか」
「〜〜〜妹の部屋に入るなんて最低!」
入りたくて入ったんじゃない。お前が僕の電動鉛筆削り機を持っていったんだろ。あれ気に入ってるんだ。超満杯になってから捨てるのが好きなのに、先に捨てやがった。捨てやがったんだ!
僕が先に捨てるはずだったのに。
BSSだ。
絶対に許さない。
そんなわけでしたくもないガサ入れをしたんだ。一発で鍵の在処を当てたがな。
確かに…似てるな…まあまあ嫌だな。気づけばこんな気分になるのか。なるほど。ヒドイ気分だ。
「弁当を奪い、金を奪い、鍵を変える。一日でこれだ。どちらが最低かよく考えてみるがいい」
「にいちゃんのはいいの! 妹の特権なの!」
「破棄するのかしないのかどっちなんだ。もうなんでもいい。疲れた、寝る」
「ずーっと寝てろ! バカにい! ……月ねー様、これでご褒美くれますよね? ……ぅぇへ、ぅぇへ、月下美少女…」
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