月星日

 もうそろそろ飽きただろ。僕も頬に突き刺さる小石には飽きた。そんなに痛くないし、耐えるのには慣れているがそろそろいいと思う。


 そう思っていたら、白パンツがいつの間にか増えていた。足が増えていた。


 そっこーぐりぐりとかエグいな。この人。



「…ふみくん、久しぶりね。あなたの幼馴染の月ちゃんだよ? 今度はリリカを泣かせたの…? いけないんだ。どこでもどんな時でも女の子をナかせるのは、相変わらずだね…?」



 このパンツ、柊か? お前も相変わらずだな。しかし、今更何のようだ? 絶縁したんじゃなかったか。何さらっと無かったことにしようとしてる。話し方が昔みたいになってるぞ。バグってんのか。



「ひぃらぎぃ〜神野くんが、神野くんが〜」


「もう大丈夫だから。私に任せなさい。対処方法は…知ってるから…んふっ…」



 なるほど。


 これはこのまま一次情報が少なすぎて誤解のまま進み、冤罪まっしぐら。柊のいつものコース。


 だが、こっちには冤罪を主張できる武器がある。一番星さんの元カレ、ヤリチン恐喝野郎の剣だ。何せ語りたてホヤホヤ、聞きたてホヤホヤだ。


 お前の策は通じない。脅しにも屈しない。


 僕にとってはただのしけた月だ!



「それはそうと…リリカのおっぱい揉んだんですって…?…パンツの写真も…かしら?」


「ひいらぎぃぃ〜〜ぅええ〜〜ん」



 なるほど?


 僕のヤリチン恐喝野郎ソードは今役立たずになってしまった。ほんとヤリチンだけはいらないな。


 しかしその痴漢証拠は全て闇の中だ。パンツ写真も消されていた。痴漢ハードルは下がったまま。まだ負けてはいない。


 それに一番星さんの涙はそれのせいじゃない。彼との失恋だ。僕の痴漢と大きく違う。


 ……一緒じゃないとも言い切れないか。度し難いな。


 一番星さんに痴漢報告されるのは事実だし構わないが、柊に利用されるのは困る。絶対に妹も焚きつける。



 ただこの状態だと、どちらにせよ何も喋れない。喋ったところで殴られる。


 まるで浦島太郎の亀の気分だ。いつも早く叫べ叫べと思っていた。助けを早く求めろと。だけど今わかった。あの子が何も喋らなかったのは、ちゃんとした理由があったのだ。


 だが、僕が知っている亀ボコボコに嬲るバージョンは童子三人衆。まだ亀には負けていない。



 あ、あ、あれ? いつの間にか白パンツがまた増えてるけど? いや、ぐりぐり足も増えてるけど?

 


「神野さぁん。あなただけの太陽さんですよぉ? お日様さんですよぉ? 私のラブレター、なぁんで職員室にあるんですかぁ? もしかして照れて告げぐっちゃいましたぁ? もう無駄ですのにぃこのこのぉ」



 日向…なるほど。未来に進むのではなく、過去が追いかけてくるのか。


 今時の浦島太郎は。いや、亀は。


 あ、痛い、威力が違う。


 三本の矢の教えは正しかった。



「何、怪奇日蝕。今から、はぁ、私がふ、ふみくんを躾けるの。はぁ、はぁ、邪魔しないでくれるかしら?」


「あらあ、元幼馴染(困惑)さんじゃないですかぁ。もー今やただの他人(真実)さんじゃないですかぁ。お久しぶりですぅ。二年ぶりでしたかぁ? 燦々とした太陽に隠れてわかりませんでしたぁ。昼間のお月さんってほんっと存在感なくってぇ。それに神野さんとは絶縁したはずですが? はて? はて? 行動が謎過ぎて複雑怪奇な月蝕さんこそ今更何用ですぅ?」



「んぐッ…あんたも去年同クラだったでしょうが……私はリリカのお友達として、こいつを今から躾けるの。貴方こそリリカが絡み出したら動き出すなんて、相変わらずの日陰具合ね。太陽なんて噂どっから沸いたのかしら。まさか自分からだとしたら痛いわよね? それよりどっかよその男のところにまた行ったら? 黒点だらけの散々アバズレ寝取られ女さん?」


「んんッ! あ、あらあら〜それはそれは大いなる誤解ですぅ。私はず〜っと神野さん一筋ですぅ。…貴方と違って。それにしても神野さんを振り回して捨てたのに、星崎さんが絡み出したら便乗して過去を有耶無耶にしようだなんて、相変わらずつごもりみたいで真っ黒黒な人ですねぇ? いや、そもそもそれが狙いではぁ? まぁ今更謝っても無駄ですよぉ? それにそんな酷いことする人なんていましたかしらぁ。あなた以外。この根暗嘘告女さん?」


「あ" 何よ?」


「あは。何ですかぁ?」


「ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ」



 なる、ほど。


 どうでも、いいけど、その、ぐりぐり、するの、やめて、くれないか。そういう、趣味、ないんだ。久しぶりの、出会い方、なんてこんな時、じゃなくて、いいだろ。狂ってん、のか。いや、狂って、たな。この人達。



「ぐすっ……?… あの…柊と、日向さんは、神野くんに、酷いこと、されたの…?…」


「「すっごいの! されたわ!!」」



 その言い方やめてくれないか。ハモるのも。また一番星さんに殴られる。


 ほんと、見上げた白パンツ×3じゃ割に合わない。それくらいは絵に描ける。美しいかどうかはさておいて。


 それに0に0だ。何にもならない。僕のライフはずっと0。


 嘘告だろうが寝取られだろうが浮気者扱いだろうが本当の事でも嘘の事でも最早終わったことだ。なんでもいい。どうでもいい。


 大勢が信じたことだけが真実だ。世の中そういう風に出来ている。そして僕も納得している。あの頃の僕も人を信じたのが悪かった。酷かった。お互い様だ。何も恨んでない。だから放っておいてくれ。


 終わってから手に入れた真実は一つ。


 キラキラには関わっちゃいけない。


 それだけが、僕の中に刻まれた。


 あ、やっぱり眠くなってきた。


 最近は痛くて起きてしまう。


 このまま寝てしまおう。


 それにしても、だ。


 やっぱり、だ。


 こいつ、ら。


 ほんっと。


 ヒドイ。


 Z Z。


 …。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る