失恋土下座
校舎裏に二人で来た。
道中、ざわめく生徒達など見向きもせずに、一番星さんは僕の手首の関節をキメながら早足で引っ張っていた。
すれ違う男子生徒の顔、見てないか。見てないな、この人。
これだからキラキラした奴は嫌なんだ。
こんなの、あとでやっかみの対象になる。群がる思春期男子達の嫉妬が、妄想が、拗らせが、回り回って僕に不幸を突き刺してくる。
男の嫉妬のサーベルは目にわかるカタチで見せつけると一気に突き刺してくる。
ヒロインの光が強いほど近くにいる僕は魔物認定されやすい。討伐されやすい。そして魔物の言葉はだいたい通じない。
中学の時のようなのはもう懲り懲りだ。
しかし、なんだろうか。手首を離し対面したあと俯いて黙ってる一番星さん。
しかし、両肩一緒には見にくいな。ここはもう彼女の射程距離だ。離れたい。
「…神野くんの…言った…とおりだった。手伝ってもらっていろいろ調べたらいっぱい出てきた。裏垢も。今カノも。セフレも。彼を疑うなんて嫌だからそんな事しなかった。確かめようとしたらすぐにラブホ誘ってきた。拒否したら性格が豹変した。好きが吹っ飛んだ。殴った。訴えてやるって言った。怖くなって殴って逃げた」
「……」
なるほど。
やっぱり……殴ったのか。コワァ。この人ヤバァ。そもそもそんなあからさまなのわかるだろ。あんな出会い方ただのヤリモクナンパだっただろ。でも異性には…わからないのか。
僕も何故一番星さんにこうも殴られたのかわからない。お互い様か。
でもその場で彼氏を殴るのは正しい。逃げるのも正当だ。でも僕を殴るのは正しくない。不当だ。早く帰りたい。
いや、ジップ&ロック、ジップ&ロック。
「ねえ、神野くんはなんでわかったの? だって出会ってからの話だけだよ。おかしいよ。おかしいじゃない。柊に中学のこと少し聞いた。もしかして過去に同じことしてたから? 同類だってこと? ううん、それ以外ない。だったらもう容赦しない…女の敵でしょ?」
なるほど?
あれ、おかしいぞ? 彼女が不幸になるのを未然に防いだはずだ。防げたのも事実だ。
もし仮に後でお祭りになっても、ここの地面のようにちょっと柔らかく受け止めれるような小規模なお祭りになったはず。
それに何より感謝祭が先だ。
それに容赦…? あれ容赦…してたのか。え、嘘、あれ以上があるのか…? 気絶の次って死ぬくらいしか思いつかないが?
いくら0に0でもそれはライフ、僕の心の話。でも物理は違う。現実には、肉体には、ヒットポイントは確かにある。駄目な場所も、クリティカルも確かにある。
「ねぇ、なんでなの? もしかしてあいつと知り合いとか? わたしのこと影で笑ってたとか? 身体だけ好きってそういうことなんでしょ? そりゃ今まで空手ばっかで女の子っぽいことしたことなかったし、恋なんてしたことなくて初めてだったし、ずっと浮かれてたのは事実だったし、お気軽でバカな女なんて近くで思われてたんだろうなって。神野くんもそうなんでしょ?」
いや? コンマ1ミリも合ってないが? 知り合いじゃないが? 心配しかしてなかったが? 君はバカなんじゃなくて馬鹿素直なだけだったが? 絡んできたのはそちらさんだが? 何よりお気軽に振る舞われる君の拳のことしか考えてなかったが? もう殴られたくないとただただ願っていただけだが?
いや……そうだった。
僕の言葉はいつも届かない。だから届けるつもりもない。殴られすぎて忘れていた。カミソリ見て思い出した。
それと、その澱んだ目を僕に向けてくるけど、その瞳が他に向いてるのが好きなんだ。それ眺めるのが好きなんだ。
それにその対象に指定される覚えはない。
僕がしたことなんて、コンパスケースを拾って、届けて、内緒にすると誓って、乳揉みして、パンチラ撮って、土下座して、彼氏一個褒めて、身体褒めたくらいだ。それなのに殴られるなんて、そんな事!
……よくよく考えてみると、ヤリ未遂チン元カレよりクズ重ねてる。
今となっては。
ほん、おま、この、もっと頑張れヤリチンンン! とばっちりで殴られるだろぉぉ!
ナンパをピークにするな! セックスをゴールにするな! チン先にだけ頭脳を集めるな! もっと薄く広げて俯瞰しろ! 女の子相手だぞ! ヘタくそか!
いや、大丈夫大丈夫。僕はもう禊は済ませてある。殴られることで…あれ…いや…それはヤリ未遂チン元カレも一緒か…
なるほど。
マズイ。
痴漢が再燃する。
殴られる。
仕方ない。ジップ&ロックは解除しよう。
「これで…んぶっ!」
土下座したら頭をそっこー踏まれた。ヒドイなこの人。しかし、反射的に顔横向きにして良かった。鼻はかなり痛い。だが、この高さなら殴れない。
心に安堵の風が吹く。
まさに一服の清涼剤だ。
土下座で。
ヒドイ。
でも虫コンパスの刑よりマシか。そのもう容赦しない上のやつって多分虫コンパスのことだろう。
そんなの一突きで死んでしまう。
いや、死にはしないか。
生き地獄か。悶えるだけか。黒ヒゲか。
やっぱり、ヒドイ。
「ねぇ、馬鹿にしてたんでしょ? そうなんでしょ? わたし今までイジメとかハブとかされてもさ、拳でかわしてきたからさ。解決方法なんてこれしか知らないわけ。クズなやつなんて近寄ってこなかった。だからなのかな。高校入って、頑張って可愛いくして、頑張って愛想よくして…殴るなんて思わなかったでしょ…?…頑張って誰とも仲良くして…頑張って嫌な顔せずに…頑張って…クズなやつの…見分け方なんて…恋なんて…知らなかった…ぅ、う、ぐすっ、ぐすっ、う、ぅぅ」
なるほど。
いや、努力云々は個々人それぞれあるだろうし、一番星さんの勝手だ。そして君はバカ素直なだけだ。
それに、今となっては気軽に意識を刈り取る死神みたいな人にしか僕には見えない。その涙のポタポタが、死へのカウントダウンにしか聞こえない。さらに更新されて、踏むが追加されている。
……蹴り技もある気がしてきた。
気付くんじゃなかった。コワァ。
それはともかく、ながらは良くない。それは恋以前に、殴る以前に習わなかったか?
話すなら話す。泣くなら泣く。踏むなら踏む。パンツ見せるなら見せる。
一つ一つこなせ。同時にするな。リアクションに困る。どれからツッコめばいい。
まあ…このあとは帰るだけだ。気の済むまでさせればいいか。
今見えてる白パンツでイーブンにしておこう。
土下座アタマ踏みにしては、しけてんな。
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