先触れカミソリ

 我が高校、我がクラスにはクラスカーストがない。まあ、それが普通だと思うけど、あるところにはある。

 だが、その代わりに、イジメと金持ち。この二代派閥が闇で存在していた。そのどちらも僕だけに降りかかる。


 二年ぶりに。


 僕だけに。



 朝、バトルフィールドにビクつきながら登校し、無事学校に辿り着いたと思ったらこれだ。



「カミソリ…」



 の刃が上履きに入っていた。


 僕は周りを見渡しもせずに、この三文芝居が始まる前にと、職員室へダッシュで向かった。土足のままで。



「池内先生」


「神野くん。どうしましたか? 上履き…にカミソリ?! ちょ、ちょっとこっちこっち…困るんですよぉ。…でも何でカミソリなんて…いったい誰が…」


「日向さんです」



「日向、日向向日葵ひなた ひまわりさんが…? いやまさか…」



 担任の池内先生に話を持ってきた。彼女はたしかまだ20代。まだ若いからと期待したが、この感じは言っても無駄か。

 まあ仕方ないか。日向家は多額の寄付をしてるらしいし。教師陣も把握してるだろう。それにあの人懐っこい振る舞いだ。誰しもが彼女を信じる。ああ、燦々爽やか太陽さんだと信じてしまう。


 しけてんな。


 なら、せめておっきな声でせめてアピールしとこう。



「日向さんにぃ! カミソ──んぶっ…」


「わわ! ダメダメダメ! 駄目ですよぉ! まだ犯人なんてわかってないんですから! 決めつけちゃ駄目です!」



 口を塞がれてしまった。


 それに決めつけでも何でもなく、中学の頃からの彼女なりの呼び出し方法だ。どこの世界にこんな先触れ出すやつが二人といるんだ。


 見た目と行動が違いすぎて誰も信じない。高校ならどうにかなるかと思ってたけどならないのか。あの燦々とした人を魅了する演技に皆騙されてしまう。


 高校ではなくなって落ち着いていたのに…最近…何かあったか? …気絶しかしてないが? 熱い拳と硬い感触ばかりだが?


 もしかして…一番星さんか? 



 「も〜神野くん! 決めつけちゃ駄目ですよ。それにこんなこと彼女がするはずありません。先生が探しますから一旦預けてください」


 「…はい。失礼しました」



 またこのパターンか。このままうやむやにされるやつか。ほんとに厄介だな、外面の良い金持ちからのイジメは。まあ0に0だ。何にもならない。


 でも今日は早退するか…最近殴られてばっかりだしな…


 しかし、あんな女庇うとか池内も狂ってんな。



 職員室を出て、まっすぐ下駄箱に向かうと、今一番僕にホットなヒドイ一番星さんがいた。

 またバトルフィールドに入らないように注意しないといけない。ここは素早く立ち去ろう。



「神野くん。…おはよう」


「おはよう、星崎さん。さようなら」



 なんか…澱んでる。何か彼氏とあったか。まあでも大丈夫だろう。ちゃんと最悪の事態は伝えてある。

 信じる信じないは一番星さん次第だ。僕に出来ることはただ一つ。


 星に願いを。


 具体的には殴らないで。


 僕は殴られる前に帰る。



「どこ行くの。ちょっと。帰らないの。ちょっと来て」



 とっ捕まった。動き…早いな…注意してても目の前に一瞬で現れた。流星かこの人。



「殴らない?」


「…場合による」



 なるほど。


 少しは変化したのか……ダメな方に。ヒドイ。なら、一応こちらの要望を重ねておこう。



「気絶はもういや。僕のライフは0」


「神野くんが悪いんでしょ。いーから来なさい」



 え? 僕悪いか…あづッ、良い握力してる。これは抜け出しにくい。関節の良いとこ掴んでるな…この間と違う掴み方だ。囮といい、底が見えない。


 なら少し確認させてほしい。



「硬い?」


「…やわかいとこよ。校舎裏。大丈夫」


「………」



 なるほど。


 いや? そうじゃないが? 一に気絶、二に環境、一がなかったらそもそも二は配慮はしなくていい。一を配慮しろ、一を。一がダメな方に膨らんでることに気づけ。二に配慮してどうする。無茶苦茶か。



「……言ったの確かに僕だけど、そういう問題でもないけど……わかった」


「…それでいいのよ。ほら急いで」



 なんか良い瞳してるし、仕方ない。


 しかし、日に日に躊躇がなくなるな、この人。まだ廊下じゃない分マシ…最低限の環境は整ったか。


 あとは…吐き出させるだけでいいか。ならご存分に話すといい。もういらないことは喋らない。


 今日の僕の口はジップ&ロック仕様だ。チャックは捨てた。あれは隙間から溢れてしまう。それにいつの間にか開いてしまうものだ。いつの間にか開けられているものだ。


 あと僕に出来ることは星に願うことだけ。


 どうか、殴らないで。


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