好きだ。
黙って座る僕の前に、体育の着替えから帰ってきた一番星さんが座る。
僕を見てすかさず、大きなため息をつく一番星さん。
まあまあ失礼だな、この人。
いや、素直なだけか……やっぱり失礼だな。
それと、前置きがないと良いけどな。
「あんた…昔太陽ちゃんにも何かしたの? 話聞いたら随分と不機嫌だったけど…」
「何も」
やっぱり前置きがあった。
今日の体育は隣のクラスとの合同授業だったから、また何かネタを仕入れたんだろう。
この人、やっぱり酷いな…。
彼女の言う太陽ちゃんとは隣クラの同級生、
我が校の燦々爽やか太陽さんと言われて早二年。オナ中の金持ち美少女だ。
そして現状彼女を怒らせているのは多分一番星さんだ。僕じゃない。
「嘘。あんな可愛いくて良い子にキレられて…絶対なんかしたんでしょ? 他のあんたの同中の子に聞いてもなんか隠すし…」
「強いて言うなら……NTRかな」
「…なんかの略? ……まあ、良いわ。……それより…その、昨日なんで、その、あんな事思ったのよ」
一番星さんは少し不安な表情、二等星くらいでこっち見る。
あんな事、と言えば彼氏に対する僕の総合評価か。
間違ってないと思うけど、言えば藪蛇だ。もう殴られるのは勘弁だ。
僕はこれから始まる面倒な会話を見抜いた。
だから、彼女には幸せになれるよう再度…いや…少し考えてから、彼女の不幸を頑張って応援する事にした。
それに、もう殴られるのも、ヤリチン系話も、どっちもお腹いっぱいだ。
星に願いを! 頑張れ僕よ!
「じょ、じょうだん、だよ〜い、いい、かれし、だよ〜」
「嘘ヘタか。ヘタっぴか。なんで痴漢で動揺しないのに無茶苦茶動揺してるのよ…」
「……」
一番星さんは割と酷い事を言うな。だいたい僕の演技がへっぽこなのは自分が一番よく知っている。
それに、嘘はまあまあキライだ。
「嘘が申し訳なく」
「なんでそんな………はわっ?!…君…も、もしかしてわたしの事…す、す、好き、とか…?…」
小声でヒソヒソと僕に近づきながら言ってくる一番星さん。
体育終わり。男子も女子もまだ数名のみしか帰ってきていない。だからそんな近づかなくても小声でいいはず。
汗の匂いとか気にしないのか…
ほんと大丈夫かこの人。会話と距離感おかし…ああ、虫コンパス…
なるほど。
すぐさま……仕留めれる距離か。
この距離が彼女のエリア、ナワバリなのだろう。なら、ゆっくりスウェーしながら答えよう。
いつ手を出されるかわからない怖さを身体が感じ始めている。
これが、ワカラセか…恐怖しかないな。
これは、ちゃんと答えなきゃいけない。
それに男子達の一番リリカ人気がわかった。この警戒心の無さだ。他にも何人かいる美少女たちより人気がアタマ一つ抜きん出ている事に、理由はきちんとあったのだ。
哀れな思春期妄想爆発男子諸君。
これはただのバトルフィールドだ。
黒星にはもうなりたくない! 行け僕よ!
「それは好きだけど───」
「ッはぁ?! は〜ん。まあ、わたし? モテるし? 仕方ないけど? なぁ〜んだ。他にも居たわ。そんなヤツ。だからなのね。あんな事言って彼氏と別れさせよーって考え───」
「───めちゃくちゃ苦手」
「ってなんでよ! 苦手なのに好きとか意味わかんないし! どーせ好きなんて適当に言って誤魔化す気なんでしょ!」
…ほんと人の話聞かないな、この人。苦手だけど好きとは言っていない。好きだけど苦手。それは大きく異なっている。
僕にとっては。
それに好きにもいろいろある。そして適当でも演技でも、舐めてもいない。ましてや僕の演技はへっぽこだ。嘘はさっきみたいにだいたいバレる。
だから信じてもらうために、僕は本気を出す事にした。
「星崎さん。僕は───本気だ」
「うっ! 急にそんな真剣な目で…も、もう、なんなのよ…」
「良い身体してるから好きだ。特にムチっとした太ももと二の腕。性格は激烈無理」
「死ねっ!」
僕の本気がきちんと伝わった一番星さんは、またしても攻撃してきた。
しかし、無駄だ。今回は攻撃の起点、肩を見据えている、キャラクターをわかっている。バトルフィールドも把握した。
そして、彼女は殴る人で、話を聞かない人で、拳が答えの人だ。
それを躱し、今度は気絶を防ぐことに、ほら成功した、と思ったら左は囮だった。
「こんの変態っ!」
僕が気づいたときにはもう放課後だった。
彼女のフィールドにいたらやはり強引にヤられるのか…乗り出してのフェイント…フィールドが動くとは…しかし、中腰でどうやって力を入れたんだ。
ちゃんと誤魔化さずに言ったのに。
殴るなんて、ヒドイ。
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