頭に浮かんだ。@浅葉時生
成宮のおじさんの会社に入って、三か月が経っていた。
おじさんの会社は手広く事業をしていた。
僕が小さな頃は、確か建設会社一本だったはずだ。
おじさん曰く、国が公共事業費を削り、談合を悪様に言われるようになってから多角的事業に変えたという。
なんでも談合は地域を助ける互助の役目だったそうだ。それをさも悪く伝え、自由競争なんて言葉で誤魔化したと言う。
結果地元でもなんでも無い資本力のある会社か、政治力のある会社しか入札で勝てない仕組みになってしまい、地域にお金が落ちなくなり、良い技術を持った会社でも容赦なく潰れてしまった。
それが今の地方の衰退だよ、まあ他にもまだまだ理由はあるがね、そう言いながら自社の概要を説明してくれた。
僕には目に見えるものしかわからなかった。
でもそんな事は目に見えていたと、おじさんはいう。
ほら、時生くんとも小さな頃によく行った商店街。いろいろと無くなってるだろう? 寂れる一方さ。と。
小さな頃、遥とはしゃいでいた思い出がある商店街。確かに昔とは違い、寂しさを感じる。
その全てではないが、経営の危なくなった会社を救って、その会社を元にしてグループ化してきたらしい。
ここは俺の故郷なんだ。このまま衰退なんてさせたく無いんだ。だから、時生くん、君にもここに居てほしい気持ちもあるんだ。
そう言っていた。
ただ、その多角化のおかげで、建設とは無縁な仕事をしてきた僕は助かった。すぐにおじさんの役に立てたからだ。
父さんとの残りの時間。あまり考えたくはないけど、それまでは声をかけてくれたおじさんのために精一杯働こう。
そのあと、どうするか…まだ考えたくはなかった。
◆
父さんの病状は緩やかに進行していた。肺が苦しいと身体を動かすことを躊躇うみたいで、僕には見せないようにしているが、辛そうなのは感じていた。
病気によって自分の身体を思うように動かせない、枷をかけられた様は、僕のように自ら枷をかけている事とは訳が違う。
そして僕にはいつものように笑顔を向けてくれる。
「ほら、俺のことは良いから。自分のことに時間を使え。そうだ、老人扱いだけはしないでくれよ」
自分の死も薄らと感じているはずなのに、それを感じさせないように振る舞う父さんを見ていると、僕の悩みなんて大した事はなかったんだ。そう思えてきた。
息子である僕に心配をかけたく無いだけなのかもしれない。けど、自然とそう思えてきた。
かと言って頭で理解しても、すぐには治らない。それどころか、心に嘘をついていた事を一度自覚してしまえば、人の目を見ることが少し怖くなってしまっていた。
自分の心に嘘をつき続けた代償だろうか。
自らの思い込みだったことを自覚した時、他の人はどうしているんだろうか。
そう思いながら、遥のくれた手紙をまた読んでいた。
◆
ある日の夕方。
仕事を終えてから、夕食の買い物をして帰った僕を出迎えたのは、
「…大きく、なったわね……」
「………」
母だった。
中学一年の二学期初日。
その日から家を出て行った母がいたのだ。
その日から一度も会っていない記憶より老けていた母を見て、なぜか寂れた商店街の姿が、頭に浮かんだ。
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