初めてで最後の…@黒崎仁

高校卒業式。


遥からの宣言を受けた日から俺は不思議と遥を憎めなかった。皿が砕けた事で、砕いた本人への思いをより自覚出来た。


ただの間男でしかない俺は告白すらしていない。スタートラインにも立ってなかったことはわかっていた。


なりふり構わずに、全てをつぎ込む覚悟が無かった。ただのビビりだ。


遥の愛情の行き先は、出会った時から変わらなかった。俺だけが知る真実だった。だから躊躇してきた。


そして何より、遥との関係が終わった今、遥の愛情が向き続けている時生への怒りが生まれた。今までは優越感でもあったんだろう。怒りたいのは時生だろうに、無茶苦茶だった。


でも、だからこそ、今まで潤滑油を滑稽に演じてきた俺は、最後に全てバラしてやると決めた。


滑稽なままでいたくなかった。


これから大学生活が始まる。その前にこの三人の関係をぶち壊し、全員をスタートラインに立たせてやる。


卒業打ち上げの帰り道。必ず三人になる。

よく三人で行った公園で、全てを遥の前で時生にぶちまける。それで、遥は時生から卒業する。時生に殴られて、俺も時生から卒業する。


そう思っていた。



だが、ぶちまけたのは時生だった。


始めから卒業していたのは時生だった。


悲壮感などなく、最後まで笑顔だった。



別れを告げられ、呆然とした遥も見ずに、去っていった。自分のプランを潰され、怒りを向けた俺に、遥に謝罪しかもらえなかった俺に、大切にしろ、なんて言って。


はは。やっぱり滑稽なのは俺だった。


時生は知っていて、あんな笑顔をずっと作っていたのか。まったくわからなかった。


高校二年の夏。そこまでは確かに親友だと思っていた。皿とドーナツ。揃えば楽しかったんだ。


俺は時生をその時からちゃんと見れなくなっていたのだろう。後ろめたさからか、超えられない壁を見たくなかっただけなのか、それはわからない。


時生に別れを告げられ、時生にぶつける決意をしていた気持ちは空振りした。


この行き場のないやるせ無さに、気付けば膝が少し震えていた。まるで、転校してきた日に戻ったような気がした。


なんだ、友達を失うってこういうことなのか。転校前の最後の友達。そいつらの顔が浮かんだ。


そして、思えば、この日から俺は狂ってしまったんだろう。



大学に入ってから、周りに吹聴した。

遥は俺の女だと。


反面、あいつがしてきた俺との浮気話も流した。時生と俺のポジションを入れ替えて。


こんな事をしても、無意味な事くらいは、いや、わかってなかったんだろう。


ますます遥からは避けられていった。遥を気に入った男からは嘘をつくなと殴られ、罵られ、挙句に気付けば遥はそいつと付き合っていた。


しかも、俺への当てつけでも牽制でも何でもない。そいつのことも見ちゃいない。その裏に必ず時生だけが見えた。俺だけには見えていた。


ははは。は、なんだそれ。


ふざけんなふざけんなふざけんな!


俺の行動は次第にエスカレートしていき、遂には常習的なストーカーになってしまっていた。


これは愛だ。


これが愛だ。


そうだ、受け取らない遥が悪い。

そうとしか思えなくなっていた。


お前も同じものを時生に向けていたんだ。

だから、俺だっていいだろ?

そうとしか思えなくなっていた。


ポーズでも嫌な顔をされる度に嬉しくなっていた。


俺は行き着くところまで行き、遂には両親に殴られた。


両親は成宮の関連会社に勤めていた。社名も違ったから知らなかった。


この町には居られない。


そう両親に告げられ、自主退学もさせられ、引っ越す事になってしまった。


どうやら温情によって、警察沙汰にしたいか、この町を去るかを選ばせてくれたらしい。



それは、それだけが、遥がくれた、初めてで最後の情だった。





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