滑稽なのは俺だった。@黒崎仁

それから俺はチャンスを待った。

いくら無償の愛でも限界はくる。


それは、冷え切った両親を見てきた俺が身をもって体験した事だった。



それからは、いつか時生と別れた時に一番近くに居る俺の元に来てくれる、そう信じて仲良くしていた。


心を偽るのは慣れていた。

だから興味のない女の相談や、興味のない話を

ずっと続けてきた。


これが執着なのかも知れない。


高校生活も半ば、二年の夏休み。


たまたま出かけた先で遥に会った。滲み出そうな嬉しさには蓋をし、半ば断られても良いかと思いながらもカフェに誘った。


遥は見たことがないくらい落ち込んでいたからか、誘いに乗った。


遥は身持ちが固く、時生と一緒じゃなきゃ基本的に誰とも出掛けない。


関係を薄く狭くしてきた今までと違い、この地が故郷になるようにと、濃く狭くして皿を深くしてきた。


中学から蒔いてきた種が芽吹いた気がした。


それからはあまり親身になり過ぎないように注意しながらも遥の欲しい言葉を投げ続けた。


あまり深刻に返すと、流れはこっちに来ないどころか、警戒される。それは、今までこいつに告白してきた男たちと変わらないし、変わらない対応をされるだけだろう。


あくまで、補助。時生との潤滑油。それくらいの役回りに徹し続けた。


そうしたら、遂に花が咲いた。


遥はやっぱり燻っていたんだろう。キスだけは絶対に許さなかったが、それ以外ならほとんど受け入れた。と言っても俺もそんなには知らない。所詮高校生だ。周りにも聞けないし、ただただ受け入れてくれた事に感動していた。


悪い事は自覚している。時生への罪悪感も、ある。だけどやめられなかった。


いや、そんなモノは無いんだろう。


ただ俺の執着で、欲求だった。


だけど、身体が満たされた時、思い知らされた。


俺の皿には何にも注がれていない事に。


遥との関係を続ければ続けるほど、皿にひびが入ることを自覚していた。それでもこっちに振り向いてほしくて、この関係を続けるために補助に徹し、潤滑油であろうと努力した。


遥の心が欲しいことがバレたらこの関係は終わる。それは自覚していた。


でも、全て無駄だった。


高校三年のホワイトデー。


その日に突然終わりを告げられた。


その日の遥は、初めて相談された日と同じだった。焦燥に駆られたところだけ、違っていた。


なんでもバレンタインのお返しがどうとか。

正直、何にも頭に入ってこない。考えられない。


放心状態でもいつもと同じポジションにしかなれない俺は、穏やかに聞く振りをしながら流し聞いていた。


だけど、最後の言葉は、俺の皿を砕いた。


「今までごめんなさい。黒崎くん」


俺に向けたのは、感謝でも、愛情でもなく、ただの謝罪だった。


滑稽なのは俺だった。

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