ただの空っぽの器だった。@黒崎仁
「惚れるだろ」
これは惚れる。
成宮を初めて見た時の感想だった。
同時に、
「こんなヤツ、いるのか」
時生と過ごして感じた感想だった。
◆
転校を幼い頃から繰り返していた俺は、友達が出来る度に嫌気がさしていた。
どうせまた離れるんだろ。
また直ぐ居なくなるならと、友達と呼べるやつなんて作ったことがなかった。表面的な付き合いなら上手かった。何度も繰り返すからウケを狙えば入り込める。事実イジメどころか、涙さえ浮かべて別れを惜しんでくれた。
こんなもんか。
達観というか、諦観というか。
俺には心を通わせたやつなどいなかった。両親でさえ。
中学二年になる年だった。
新しい引っ越し先に着いた時、
ここに長く住む、両親にそう言われた。
土地に愛着なんて持ったことのない俺は、その意味がわからなかった。
どうせ楽勝だろ、そう思っていた。
いつものように、転校生特有の物珍しさを逆手に取り、輪の中に入っていった。
ほら楽勝だ。
転校初日、家にたどり着いた時、膝が笑っていた。どうやら無理をしていたみたいだ。
どうせ別れるからと、人をちゃんと見てなかった。そのツケが溜まっていた。
今まで表面的な付き合いをベースにしていたから、オープンな性格に設定していた。づけづけと踏み込んでくるクラスメイトもどうせ別れるし、と決めつけてきたからこの方法でしか人との関わり方を知らなかった。
そうか。マジックだ。ショーを見せていただけ。タネが破れたら俺には何も残っていなかった。
ただの空っぽの器だった。
何日か経って薄らと感じ始めていた恐怖。
そんな時、遥と時生に出会った。
◆
遥、こいつはヤバかった。
見た目もそうだが、情念の塊だった。
常にニコニコしているのに、ドロりとした瞳をしていた。
今まで何にも執着の無い俺が、どハマりした。ただ空っぽの俺なんて見せられない。
こいつのためを思えばオープンな性格でもなんでも出来る。
そして時生。こいつは俺より空っぽだった。俺はまだ空っぽだと言っても皿のイメージだ。何か乗せればそれなりだ。
時生は違う。
穴の空いているドーナツだ。何も載せない。何も載らない。
何も作らない。何も偽らない。
俺だけがわかった。
時生と居ると安心出来た。膝も笑わない。
踏み込んでこない性質が居心地が良かった。こんなやつが居るなんて。
こいつとは親友になれる。
遥さえいなければ。
時生はドーナツなのに、遥はこいつだけを見ている。何を注いでも無駄なのに、たっぷりと注いでやがった。
滑稽だった。
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