ほんと、大馬鹿だ、私。@成宮遥

何の目的もないまま、気づけば大学三回生になっていた。順当に行けばこのまま卒業して就職。多分、成宮のどこか関連会社に勤めることになるだろうけど…





「遥、座りなさい。お前に縁談だ」


「……待って待って、お父さん!大学出るまではって約束したじゃない!」


「お前が時生君と一緒になるならこんな話はしていない」

「……」


「知っているぞ。もう三年は会ってないだろう?」

「……」


「母さんに少し聞いた。誠司は何も話さなかったがな」

「……っ」


「…全員と会って、その中から選びなさい。いずれも成宮と関係のある会社の息子だ」


「……いや」


「何?」


「わたし嫌だから…ぜったい嫌だから!」


「はるかっ!」





浅葉誠司。トキくんのお父さん。私の父とは幼馴染だ。三年前のあの日から話していない。


自分の罪を再度突き付けられるのが怖かった。私はただ逃げていた。


トキくんのことを考えるたびに苦しくなって、辛くなって。そして、他の男に逃げていたんだ。


でも何にも変わらなかった。


トキくんが去って、わたしが逃げて。それじゃあ、ずっと逢えないよね。簡単な理屈だった。縁談の話がきて、覚悟が決まった。


拒否されて、自信を無くして、黒崎と寝て、トキくんに別れを告げられて、そうして、逃げて。


謝ることも、償うこともできてない。結局、高校を卒業したあの日のまま。ううん、高校二年生の夏から。


ずっと見ないように日々、流されて生きてきたんだ。


拒否されても良い。無視されても良い。もっと嫌われたって良い。


迷惑だろうけど……トキくんにもう一度逢う。そして、精一杯謝ろう。





「誠司さんお願いしますっ!どうしても、どうしてもトキくんに逢いたいんですっ。償いたいんです!謝り、たいん、です…どうか、お願い、します」



「……人間、誰しも過ちは犯すものだ。反省もいい。でもそれは君が楽になりたいだけじゃないのかい?」



「……否定はしません…でも、ただもう一度逢って、精一杯、謝りたいんです…」



「……わかった。…場所は教えてあげよう。ただし、時生には謝るだけにして欲しい。それが条件だ。償いは、時生は多分望まない。………君が思い悩んでいる事は彰から聞いている。諏訪子さんにもだ。それに君も小さな頃から………いや、よそう。私にとって一番大事な息子なんだ。頼む」





教えてもらったのは山と海に挟まれた街だった。地元から随分と遠い街だった。その中心部から離れた町の駅。


ここから五分ほどのアパートに住んでいるらしかった。アルバイトからの帰宅時間だけ教えてもらっていた。


「あ……」


電車から降りてきたのはトキくんだった。ああ、トキくんだ。


私、やっぱり好きなんだ。


謝るだけだなんて出来そうにない。一緒にお話したい。優しい瞳をもう一度向けて欲しい。


半ば衝動的に駆け寄ろうとした時、トキくんの腕に抱きつく女の人が居た。


「……ぁ」


そのまま、駅を出て行った。アパートに向かうのだろう。


私は何も考えられなくなって、気づけば後をつけていた。二人で古いアパートに入るところを確認してから静かに近づいた。


窓の小さな隙間から中が見えた。


「は、はは」


二人は抱き合い、静かにセックスし始めた。乾いた小さな笑いが口から少し漏れた。


これは、駄目だ。震える体を掻き抱きながら、その場を離れた。





滞在先のホテルのベッドで、何するわけでもなく、ボーっと仰向けになっていた。


トキくんの彼女かな…


好きな人が自分と違う女を、まっすぐ見据えながら抱く。こんなにも心を抉られるなんて思わなかった。


話で聞くのも言葉で言うのも全然リアルじゃなかった。そんな生易しいものじゃなかった。こんなものをトキくんに1年間も見せていたなんて……それももっと酷いかたちで…


「おぇっ、げぇ、ぉぇ」


都合、何度目かわからない後悔に、涙が出てきて、嘔吐えずいた。


泣く資格なんて無いのはわかっている。


でも、気づけば、私をあれだけ拒否していたのは何だったのとか、結局私の事なんて好きでも何でもなかったってことじゃないとか。


トキくんを頭の中で責めていた。


最初に裏切ったのは、私の方なのに。


「ほんと、大馬鹿だ、私」


  

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