どんなカタチをしていたのだろうか。@浅葉時生

地元から遠く離れた大学を卒業し、この場所で就職し、二年が過ぎていた。相変わらずの人間不信ではあったが、薄い関係を保ちながらもそれなりに日々暮らしていた。


彼女も出来たりした。


付き合った人はみんないい人達だった。アルバイト先の子、同じ大学の先輩。紹介。こんな僕に好きだと言ってくれた。始めはスルーもしていたが、思いをぶつけてくれた。


僕は、彼女たちにそれぞれ人としての好意を持った。女の子は成宮しか知らなかったから、これが恋なのか、愛なのかはわからなかった。けど、これは好きという感情なんだと思い、付き合った。


身体を重ねてもみた。多分、僕はこの感情の行き着く先を知りたかったんだろう。だけど、いつも最後までは出来なかった。


いつも中学一年の夏を思い出してしまう。


母さんの浮気現場を見た時。その光景を思い出すと、勃たなかった。誰にも言えなかったことだった。


成宮と親友の行為を見てから、好きだなんて、軽々しくも言えなくなっていた。


言葉でも、身体でも決定的なことを表現出来なかったからだろうか。みんな離れていった。悲しさはあった。けど、僕は引き止めも執着もしなかった。


そんな別れを繰り返していた。


僕は愛や心がなんなのかわからなくなっていた。


わかっている事は、別れる度にホッと胸を撫で下ろしている酷い自分がいるということだけだった。


そして、その度にあの日のことを思いだす。


母の言っていた愛は、成宮の思っていた愛は、いったいどんなカタチをしていたのだろうか。





ある日、親戚から連絡が入った。


大学を卒業した時、就職祝いをしたいからと、お礼もしなくてはならないからと、父を通じて連絡先を教えていた。


父が倒れたと言われた。


すぐさま上司に伝え、休みを取り、懸命に帰った。地元の駅からタクシーで向かった病院は、僕と成宮が生まれた総合病院だった。



「時生君、こっちだ!」


「…成宮、さん…お久しぶりです」


「あ、…ああっ、久しぶりだ。元気だったかね。再会の話は後だ、誠司はこっちだ」


「…ありがとうございます」



親戚ではなく、成宮のおじさんが居た。成宮彰。父さんとは幼馴染で、小さな頃から僕を実の息子のように可愛がってくれていた。


高校の卒業式の朝に会ったのが最後だった。


おじさん、と呼ばない僕に、少し驚いたようだった。その慌てぶりに僕自身少し冷静になれた。


移動で疲れていたのか、ぼーっとした頭でついていった。



父さんは肺の病気だった。


難病指定の病気で、有効な薬も手術も特になく、あるとすれば肺移植だと医師は言う。だけど、移植手術を選んでも国内で5件しか移植成功例はなく、その上、移植費用は莫大で、もし仮に移植に成功したとしても生存率は僅か。


わかったことは、父さんはあと数年かけて、緩やかに死に向かうという事だけだった。



病室の父さんは、朗らかに笑いながら、このままで良いさ、と僕に言った。





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