いいんだ。わかってるから@浅葉時生

それからは勉強に打ち込み、遥には進学先を地元の大学だと伝え、だらだらと見えるように高校生活を送った。


強化された人間不信を見抜かれないように、なるべく以前のまま誤魔化しながら過ごしていた。少し笑顔が増えたかもしれない。


デートやスキンシップにも耐えた。


イベントごとや、クラスでの扱いにも耐えた。



遥や仁を殺したいなんて思わなかった。ただただスルーした。


でも父さんには見抜かれていた。


「時生。今まで俺の不甲斐なさから辛い思いをさせてきたのはわかっている。ただ、ここ最近はすごく辛そうに見える。良ければ俺に話してみないか?」


涙が出た。やはり無理をしていたのだろうか。誤魔化せなくなったので、今までの事、これからの事、なるべく理性的に話してみた。伝わるだろうか。


「…そうか」


何も言わず抱きしめてくれた。


ああ、父さんの気持ちが伝わる。これだけで良かったのか。遥にもしてあげたら何か変わったのだろうか。


いや、全く同じ体験をした同士だから父さんと心を通わせれているのかもしれない。


「別に近所にバレても構わないさ。お前のことだから大方、町内会の付き合いのことでも心配したんだろう。バカだな。本当に。…お前以上に大事なものなんてあるか。ただ、俺はお前の選択を応援する。だからしたいようにすれば良い。俺の事は気にするな」





高校三年、卒業式の帰り道。

遥と腕を組み、仁と並んで帰宅していた。


「また三人一緒だな」


「トキくんと大学も一緒なら保育園からコンプリートなんだよっ!凄くない?」


「そうだね」


「それは凄い。なんというか美しい愛だな」


「ねー?愛、愛〜」


美しい愛、か。

この二人は何を言ってるんだろうか。


浮気現場を初めて目撃した時、一度の過ちかもしれないと思い直し、何度か探ってみたが、真っ黒な二人だった。


「どした?薄く笑って?」


「いや、滑稽だな、って」


「ん?」


「こんなものが愛だなんて思わなかったからさ」


「…トキくん?」


「なんか…酷い言い草だな」



滑稽な二人の会話につい本音を漏らした。

二人とも眉を顰め、怪訝な顔で僕を見た。


今日は卒業式。卒業だ。クラスのみんなにも、近所の人にも何にもバレていない。


組まれてる腕をやんわりほどき、距離を取る。只事ではない空気を感じたのだろうか、少し身体を固くした。


今はただの知り合いに成り下がった成宮遥を見て言う。


「今までありがとう。成宮。ちっとも心なんて通わなかったよ」


「…ぇ、な、苗字?なんでそんなことを…トキくん?」


「なんでそんな言い方するんだよ。遥ちゃんがどれだけ……可哀想だろ」


今はただの同級生に成り下がった黒崎仁を見て答える。


「黒崎も。成宮を大切にな」


「……なに?」


「…ぅぇ、え?待って待って…」


狼狽える成宮を見ても何も思わない。もう一年かけて精算したのだ。


一度振り解いた腕を再び絡ませて成宮は言う。


「誤解してるよ、トキくん!」


「あぁ、誤解、誤解してる。怒るぞ」


「いいんだよ。わかってるから」


ただ事では無い事を察したのだろう。何にも何があるとは言っていないが、確認のための言葉は二人とも避け、僕を諌めてくる。


事実は口にしずらいか。


「わかってない、わかってないよ!」


「本当に怒るぞ。なんで遥ちゃんを信じないんだ!」


信じる、か。

この二人には一番遠いな。


推し黙る僕に、二人は必死に弁明する。

やはり黙って行くべきだったな。


本当に僕は上手くいかないな。



「別れよう、成宮。元気で。黒崎も」


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