全然、わかってなかった。@成宮遥
大学に入ってから二か月が経った。
私の隣にトキくんは居ない。私がつい二か月前まで、信じて疑っていなかった未来にはなっていなかった。
◆
卒業式の夜、トキくんは卒業打ち上げには参加していなかった。
突然の別れに納得のいっていない私は、電話もメッセも送ったがすべて不通だった。
不安が募る中、打ち上げもそこそこにして切り上げ、トキくんのお家に向かった。トキくんのお家は真っ暗で、誰もいなかった。
翌日、居ても経ってもいられない私は朝早くからトキくんのお家に行った。
トキくんのお父さん、誠司さんがインターホン越しに答える。どうやら会う気はないみたいだった。
「昨日の夜、行ったよ」
「え、あの、どこへ?」
「…進学先だよ。それに成宮さんには教える事は出来ない。理由はわかっているね」
「…それは…その誤解で。まだ私別れるなんて」
誠司さんは昔から遥ちゃんって言ってくれてたのになんでなんだろ、なんて、この時はまだ本当の意味で自分の仕出かしたことに気づいていなかった。
「誤解か…まあ、法律に縛られているわけじゃないから軽んじているのだろうけど、不貞行為は慰謝料ものだ。だから成宮さんも結婚した時には気をつけなさい」
「そ、そんな、こと…私、しません!」
不貞行為だなんて、わたし…しかもまるでトキくんとは結婚できないみたいな言い方…
そんな認識、なかった。昨日トキくんに別れを告げられて、今言われて、初めて理解した。
「ちょっと待っていなさい」
誠司さんはやっと出てきてくれた。でも敷地内には入れてくれなかった。
「成宮さん、これを。パスコードは解除してある。写真フォルダのところを見てみるといい」
「……」
それはトキくんのスマホだった。
見覚えのあるキズがある。でも中身は初期設定のアプリだけ。二人でインストールした相性診断アプリやチャットアプリも無くなっていた。
そして…写真フォルダには複数枚の写真と動画らしきものだけが入っている。
どこを探しても二人の思い出の写真は入っていなかった。二人で撮った学校行事も、クリスマスも、遊園地も、何も無かった。
その代わり、そこには見たくないものだけが入っていた。
真っ黒な私の過去だけが。
ガタガタと震え出した私を見て、誠司さんが言う。
「わかったかい? 初めて知ったのは2年生の冬だったようだ。時生はもう一年以上かけて君とのことを精算している。母親がいない時生を今まで支えてくれてありがとう。…そのスマホは君にあげよう。でも、もうこれ以上時生を傷つけないでくれ」
◆
「成宮さん?…成宮さん!」
「…あ、え、何?」
「何じゃないよ。お昼行こうって。あら、もしかして彼氏と食べる予定だった?」
「黒崎は彼氏じゃないよ」
……セフレだった何かだよ。
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