レッター

くげちゃん

第1話


これは正しくはない。私は逃げた。私を形成したもの全てが私を否定して、軽蔑している。


深夜二時十七分、暗がりの中勉強机に備え付けられているライトを灯してちゃぶ台の上でシャーペンを走らせた。勉強机で作業をすると光が眩しすぎるのだ。目の前にはストーブ、膝の上にはブランケット、シャーペンに接する部分だけ穴を開けた手袋を身につけ、肩にはふわふわのパジャマのズボンを乗せ最大限に暖をとる。側から見たら奇妙な格好でもこの部屋には私一人である。この四畳半が私の城であった。狭くても寒くても、この部屋で寝ることで自我を保っていたようなものだった。



何も残らなかった高校生活。弁当を食べる時間すら勉強にあて、部活には名前だけが所属していた。夢なんぞ無いから勉強するのだ。「取り敢えず」の気持ちだけで勉強と寝ることを繰り返す。良い成績を取ることだけを目的として。知識が自分の中へと吸収されていく感じがとても心地よかった。だが、その快感は一瞬だけだった様に感じる。


クラス替え。たった1人の友達と同じクラスになることはマンモス校では難しかった。席は窓側の1番後ろ。最高のポジションだと思われるかもだが、授業中メガネの私には黒板の字は読めないし、声の小さい英語教諭の声も聞き取れず、授業を受ける上では最悪のポジションなのだ。あ行の苗字を恨む。何より最悪だったのが隣の席の女だ。所謂陽キャという奴で、まず声がデカく他に声がデカい女を連れて歩き、スカート丈がパンツが見える程短く、分厚い唇に血を塗った様な赤色を乗せていた。彼女の前の席の奴といつも大声で騒ぎ担任から注意を受ける。とてもうるさいしクラスみんながこの二人を腫物の様に扱っている。私も含め。私の前の席は眼鏡をかけた大人しそうな子だった。彼女もクラスに知り合いがいなかったのだろう。私と一緒にいれば一人にならないと考えたのか、私に話しかけてきた。後に彼女は私を狂わせることになる。いや、私が勝手に彼女に狂っただけかもしれない。

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