第12話 ハーレム?
俺の居た元の世界において、
魔族は、存在が確認されているのは、多くても数百体程度と聞いていた。
そのほとんどは、少数が集まってグループを作り、城や拠点を持ち、近隣の町や村を襲うなど好き放題にやっていた。
魔王城に居るのは、魔王と幹部クラス、後は単独で行動できない小者達となる。 そして、エルフや人間は数えきれないほどの人数が奴隷とされている。
冒険者達は、国や村、個人などから依頼を受け、魔族の城や拠点を攻略することを生業としていた。 当然、犠牲者を救出したり弔ったりすることも目的の一つだった。
竜人については、既に滅ぼされていたので、俺は実物を見たことが無かった。
少数で動く魔族とは違い、かなりの集団で行動していたらしい。
もう一つ魔族と違う点として、女性がちゃんと居るということだ。 それでもエルフが大好きなのは、それほどに美しいからなのは想像に易いが、本能的に何かあったのか。
竜人の女性は、あきらめていたのだろう、繁殖期以外は放置していたようだ。
そして、竜人も実際やっていたことは魔族と変らず、近隣の街などを襲っていた。特にエルフにはご執心なため、しょっちゅうエルフの村に抗争をしかけていたらしい。
だから、時には魔族とぶつかる。 その際は当然敗走するので、そのうっぷんが溜まったのか、ついには全面戦争をしかけた。それが魔族の逆鱗に触れ、滅ぼされたと聞く。
そしてエルフだ、とにかく全員が美しい。顔だけでは無い、全身がだ。さらに、老いない、長寿である。おまけに、それらの優位点の多さからくる余裕か、他の種族に比べて優しいのだ。
だが、エルフにも種族としての唯一にして最大の欠点がある。男性がいないのである。しかも、魔族や竜人では子はできず、唯一人間の男性が必要なのだ。 そして妊娠する率も低い。 さらに、男が生まれれば人間となるため、エルフはとにかく増えにくかった。
そんなエルフ達、長寿ゆえの退屈しのぎに接客業に就くのも、男を相手にする職に就く者がいるのも、そういう事なのだろう。
だから、自然と人間とエルフは友好的な関係を築けていた。
ちなみに、エルフから生まれた男は人間なのだが、かなりの美形だ。 だからこそ人間側からの強い要請でエルフの元に囲われていた。 兵士要員という名目ではあるが、人間の元に居ると、人間女性をどれだけ虜にされるか考えてしまうのだろう。
こちらの世界について、アナさんに教えてもらったところによると、二年ほど前に、アナさんと竜人のお姫様は、大陸の竜人の街へ送り出された。
その後、魔族を滅ぼしたということらしいが、詳しくは知らないと言う。
マリアデルによると、魔族を滅ぼした後はやりたい放題で、エルフの街をあらかた潰した後、人間の街に居るエルフもゲリラ的に連れ去り、人の元からもエルフが減少していった。
人間は、個体の能力で竜人に匹敵する者はほとんどいないが、やはり数が多い。数の差は、単純な力の掛け算だけでは無く、装備品の性能を上げたり、特化した戦闘職により戦術の幅を広げたり等、有利に働く。
それゆえに、竜人もあえて人側の大きな街に直接攻めてくることはしなかった様だ。
だが、竜人の横暴によりエルフが減少したのを危惧し、王は、ある場所にエルフを隠した、と言う事らしい。
もし、このまま、竜人に囲われてしまえば、数の増えようも無くなるうえ、扱いが酷く、死んでいく者もいるだろう。 今後は個体数自体が減少し絶滅の危機に瀕する事が予想できる。 竜人がそれを考え無いのか不思議なのだが。
だから、人間は竜人族討伐も続けてきた。
そして、いよいよ王国主導による竜人の居城を攻略する計画が進行するのである。
世界が、どこまで同じかわからないが、向こうと物理的性質は変わって無さそうだ。魔法もいちおう使えた。 運命のゆらぎによる微かなずれが重なって、今の状況なのだろう。
この世界のゆらぎを大きくするのが、他の世界から来てしまった異端者である俺とイオルだとしても、イオルが安心して生きられる様、この世界を少しでも平和にするために俺は戦おう。
さて、忘れていたわけでは無いと言いたいが、意識が離れていたので思い出した様なものか、すまないマリアデル。
と、自分の中で思案を始めようとしたところで、
「おい、外の女はなんだ?」
イオルが聞く、というか問い詰めてる感じだ。
「ええとね」
どう説明しようか、まだ考えてない。だが、イオルは待ってくれずにとんでも無いことを教えてくれた。
「あの女、さっき来て、いきなりスカートをたくし上げて腹を見せた」
「え?」
「これで仲間の証になりますか?……とな」
「ええ?」
「さっきの話、彼女の事は意図的に避けていた」
昨日、離れていた時の事を説明した内容についてだ。
「あ、はい。 本題に関係無いので」
「やはり、わざとだな」
そりゃあ、普通に考えて言わないよね?
「ところで、その仲間の証とは何なのです? 私にもいただけます?」
アナが割って入る様に聞いてきた。 アナには教えていない、当然だ。
「うをっ、やるとかそういうものではなく、いや、やるんだが、ああ、説明はとっても難しいので……」
と、俺がごまかそうとしていると。
「妻の証」
イオルが答えた。
「それはイオルの勝手な認識で、俺は……」
イオルの微かに涙を浮かべた怒り顔を見て、そこで止めた。
「ああ、そういう。 じゃぁ、そのうち、ビスさんの気が向いたらで……」
アナは、にっこりと解りましたと言った様だ。 察し良すぎ……で、たぶん合ってる。 ん? 気が向いたら?
「外の女性はマリアデルさん、王女の親衛隊なのは知ってると思うが、訳有ってああなってしまった。 本人には、ほんとに申し訳無いけど、俺の意識の無いところで……後で聞いたら、助けたお礼と言われた」
この際正直に言おうと決めたが、こういう言い回ししかできない。 ものすごくかっこ悪いなぁ俺。
「貴様……また……」
「あ、ああ」
「貴様は美人に弱いから、無意識は怪しいがの」
俺個人の話じゃないと思う、普通だよと言い返したいが、やっぱりかっこ悪い。
「ただ、良い人だよ」
「死ね」
「え、ええ~?」
「まぁ、よい。 好きにハーレムでもなんでも作ればよかろう。 我が本妻なのは変わらんからな」
イオルは、実際どう思っているのだろうか、魔隷紋という魔族のしばりを自分にもかけているのはわかる。人間になったのに。
自分の守護者として俺が必要なのもわかる。
独占欲が強い性格でもあるだろう。
だが、本心としての、彼女の中での俺の立ち位置はどうなのだろうか、時折見せる表情や態度は悪いものでは無いと思うが……。
ここまでの行程で、仲間そして自分の仇のはずの俺に、そういう物言いさえ無かった。
だが、それも、今はどうでもいい、既に戦うべき敵では無いのは確かなのだ。運命共同体として、のんびりと心を寄せていければ…………とか思っている俺は、もしかして馬鹿なのだろうか。
「なんですと?」
と、聞き返してみたものの、いやいや、俺の様な心からの童貞に、ハーレムなんて、そんな甲斐性あるわけない。可愛い娘をそっと眺めていれば嬉しい、そんな人間だ。
「じゃから、好きにせいと」
「わたしも入ってます? そのハーレムに」
アナさんは、ピンポイントで食いついてくる。 いや、今の状況って、ハーレムなのか?
「俺を困らせないでくれよ、ここまで、全部成り行きだって知ってるでしょ?」
「三日で女二人増やす成り行きだがな。 いや、もう一人近いのがおったな、そして……」
「イオルちゃん、もう勘弁してあげましょう。 外のこも良い子らしいですし。 みんなで仲良く。 わたしが言うのもおかしいですけど」
「わかった」
イオルがすぐに納得した。すげぇ。
「アナさん、なんかすまない。でも、俺は、あなたも、もう仲間だと思ってますよ。ただ、どうするかはあなた次第というだけで」
アナは、侍女をしていたと言っていた。俺ではできないことを任せられるだろう。居てくれるとすごく助かりそうだ。そして、役に立つとか立たないとかでなく、俺は、この人も好きだなと思っていた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
嬉しそうな笑顔で答えてくれた。その笑顔には、やはり安らぎを覚える。俺が甘えたいですよ。
「では、二人とも、ちょっと待ってね」
アナさんのおかげで、話を区切ることができた。
「マリアデルさん、ちょっといいかな?」
馬車の外に居るマリアデルに声をかける。
「はい。 中へ入ってもよろしいのでしょうか?」
「ああ、もちろん」
「では、おじゃまいたします」
マリアデルは馬車に乗り込むとすぐに自己紹介をした。
「わたしは第三王女親衛隊マリアデルと申します。本日より、ビス様御一行の護衛兼御者として転属されました。マリアデルでも、マリアでも、お好きに呼び捨ててください」
「え?」
そういえば、昨日まで御者だったおじさんがいない。
彼は俺達には関わるなと言われていたはずだから、イオルたちは知らないだろうが。
まぁ、今度会えたら、ここまでのお礼を言おう。
「だめでしょうか?」
「いや、護衛は助かる。二人の事情を知っているのであれば、守って欲しい」
「あなたに救われた私が、護衛と言うのも頼りないと思いますが」
「いえいえ、まぁ、みんな仲良くやってくれ」
「はい、よろしくお願いします。 アナゾニアスです。 アナとお呼び下さい」
とアナは素直に答える。
「好きにすればいい」
イオルもいつもの調子かな。
となれば、マリアデルにも聞くことがある。
「あ、ちょっと業務連絡を」
そう言ってマリアデルに手招きして馬車の外へ連れ出した。
「なんなりと」
「ええと、魔奴紋、俺以外に見せないって……じゃない、誰にも見せないって」
「お聞きに、なりましたか……」
顔を真っ赤にして下を向く、声も小さくなっていく。
「聞いた」
「申し訳ありません。 勢いあまって、自分でもよくわからずに頑張ってしまいました。 あの後、ものすごく後悔を」
「そういう所もあるんだね」
最初のイメージでは、かなりお堅そうだったが、今はものすごく親近感を覚える。
「え?」
「まぁ、他の人には見せないでね」
「は、はい。 お叱りにならないのですか?」
「そんなことで怒らないよ」
「ありがとうございます。以後気を付けます。いえ、絶対にしません」
赤面の笑顔には、ほんの少し涙が見えた、怒られると思ったのかなぁ。でも、やっぱりこの人も可愛いなぁ。
あ、マリアデルはどこで寝るのだろう。護衛と言ったが。
そう思っていたら、マリアデルから聞いて来た。
「わたしの私物を運んで来てもよろしいでしょうか?」
そうですよね。
「ああ、この馬車に三人はもったいなかったし」
「では、行って参ります。 それから、今後は、私が離れる際は代行者が付きますが今日はおりません、ご容赦を」
「了解、気を付けてな」
昨日のやつらは、捕まっていない様だし、イオルを襲ったやつらもどこかに居るかもしれない。 似たような連中は他にも居るだろう。いろいろと油断できない。
そう考えながら、急いで駆けて行くマリアデルの背中を見送っていて思う、あのひらひらしたスカートはやめた方がいいんじゃ。 王女に会うときに、ついでに目的を聞いてみよう。
ハーシエルは、エルフの隠れ里に居た。討伐軍の出発を見送るとすぐに自分も出発したのだ。同じ姿に変装した者が数名、いろいろな方へ向かうことで偽装したが、意味があったかは分からない。遠回りの道のりも、到着までは何事も無かった。
苦労して到着し、エルフの女王である母へ挨拶したときには、早く子を作れと言われて、少し気が抜けた。 気遣いかとも思ったが、エルフには子供が少ないから、生まれれば全員で可愛がる。そして、特に血族の子に対しては意識が変わる。だからこそ、本心なのかもしれない。
今、部屋で湯につかりながら、ふと思い出したのは、自分を助けてくれた男の顔だ。心細いのだろうか、それとも……。 そんな自分に気付いて驚く。 いや、そういう生き方をしてこなかった自分だからだ。 それに、今、自分は、母国の防衛の為にのみやって来たのだ。 だから、今のは母に言われた言葉のせいにして意識を変えた。
竜人族が何時攻めて来るかはわからない。 ここに駐屯する部隊だけで対応できるのだろうか。 そう考えて居るときに、扉をたたく音がした。
「ハーシエル様、おくつろぎのところ申し訳ありませんが、作戦会議室へお越しください」
と伝えられた。
「すまない、少々時間をいただきたい」
そう答えて湯舟を出る。
「お伝えしておきます」
すぐに伝令の気配は遠のいて行った。
着替えを済ませ、急ぎ会議室へ向かう。着くと、そこには、見知った男たちの顔、全滅したと報告のあった部隊の隊長達であった。
「お前たちは……」
「全滅したことにして、密かに移動しておりました。 ご心配をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした」
そう言うと、全員が大きくお辞儀をする。詫びだ。
「そうか、理解した。 そして、何よりも、皆が無事で本当に良かった……」
自分には知らされて居なかった事は作戦の内であることは想定できる。 そして、何よりも、仲間が生きていた事実は計り知れない嬉しさだった。 気付かぬ涙が溢れていた。
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