- 32 -

「ほら、俺たちもつきあってもう半年にもなるわけだから、きちんと将来のことも含めてちゃんとご両親に挨拶しておきたい」

 絡めた相良さんの指に力が入る。


 将来。それって。


「だめかな?」

 つないだ相良さんの腕にそっと顔を寄せる。

 やだ、嬉しくて泣きそう。


「どうしようかな」

 わざとそんな風に言って、指を離すと相良さんの前を歩き始めた。


「信乃ちゃん」

「だって相良さん」

 困惑するような相良さんの声を聞きながら続ける。振り向かないまま、心持ち、歩く速度を速めて。


「私の両親に挨拶する前に、私に言うべきことがあるんじゃないですか?」

 将来の話なんて、今初めて聞いたもの。また自分勝手に話を進めようとするんだから。


 相良さんの足音が止まった。


「浅木信乃さん」

 落ち着いた、でもちょっと緊張感のある声が聞こえて、私はゆっくり振りかえる。


 大好きな人から、大切な言葉を受け取るために。




Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しらすの彼 いずみ @izumi_one

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ