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「お仕事は大丈夫なんですか?」

 あまりにも毎日お迎えにきてくれるので、無理しているんじゃないか、って気がしてくる。

「大丈夫大丈夫。うちの上司も信乃ちゃんには負い目があるから、お迎えでーすって言うとあっさり帰してくれるよ」


 相良さんのお仕事の時間は、特に決まってはいない。バイト、と本人が言っているように、必要な時に呼び出されて手伝う、みたいな感じらしい。


「私は嬉しいですけど」

 ぼそ、と言うと、小さな声だったにも関わらず相良さんは気づいて微笑んだ。

「俺も、信乃ちゃんに会えて嬉しいよ」

 言いながら、私の手をとって指を絡める。それだけで、私の体温がかかかとあがってしまう。


「そ、それはそうと、あの、今度の日曜日、すみません、予定が入ってしまいました」

 日曜日は、久しぶりにデートの予定だった。


「そうなの? 急な用?」

「はい。父がこちらへ出張に来るついでに母もついて来るらしいので、久しぶりに一緒に食事でもどうか、と言われまして」

 そう、と言った相良さんは黙り込んでしまう。


 あ、気を悪くしたのかな。

 申し訳ないという気持ちと、デートを楽しみにしていてくれたのかなという嬉しい気持ちが入り混じる。


「ごめんなさい、来週は必ず……」

「信乃ちゃん」

「はい」

「その……俺も一緒に行っちゃだめかな」

「え?」

「君のご両親に、俺もご挨拶したいんだ」

 とくん、と胸が音を立てる。


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