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「その女性は、赤ちゃんを抱っこしてて小さい子も連れていた。サッカー台のところで君は彼女に向かって、よかったら荷物を袋にいれましょうか、って言ったんだ」
「覚えていないです」
でも、時々そういう手伝いを申し出ることはある。
「そう? 挙動不審だったのは、その女性に声をかけようかどうしようか迷っていたんだね。そう気がついて、すごい和んだ。万引き犯を見つけたとなれば、結構殺伐とした空気になることが多いから、こっちも気がはってるしね」
「はあ……」
そうやって手伝いを申し出ても、みんながみんな受けてくれるわけじゃない。反対に怒られたりすることもあるから、確かに声をかける時は勇気がいる。それを、見られてたんだ。
「それから、あのスーパーに君がいるとついつい目で追うようになった。時々人を手伝ったり、散らかってしまった商品を丁寧に整えたり……いい子だな、って思ってた。だから、初めて会話した時は、自分でも笑っちゃうくらい嬉しかった」
「しらすの時ですね」
ぼんやりと自分のコーヒーカップを見ながら言った。
あの時は、私も嬉しくて浮かれて帰ったな。なんだか、もうずっと昔の事みたいだ。
「そう。レジの女の子を助けた時も、君の足、ずっと震えてた。それでも誰かを助けることができる君は、すごい子だな、と思った。だから、好きになった」
顔をあげると、相良さんが真剣な目で私を見つめていた。
「俺の気持ちを押し付ける気はないし、君が嫌がるようなことは絶対しない。でも、せめてたまに顔を合わせた時くらい話すことは許してほしい」
「ずるい……」
「え?」
「許さない、って言ったら、私のこと諦めますか?」
く、と相良さんが息を飲んだあと、持っていたカップを置いて身を乗り出した。
「諦めない。諦めたくない。だから、俺とつきあってください」
つい、ふふ、と笑ってしまった。
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