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「浅木さんですね。はじめまして。これの上司で、庄司と言います」

 突然のことに頭の切り替えができず、私はぽかんとしたままだった。そんな私を気にするでもなく、庄司さんは相良さんに言った。

「お疲れ、太陽。証拠がとれたおかげで、今回は無事に小野を検挙できたよ」

「ここまでやって逃したら、俺、この仕事やめますよ」

 相良さんは、なぜか少し怒ったような口調だった。庄司さんはそんな相良さんの睨みを気にもせずに私に視線を移す。


「悪かったね、浅木さん。あまり太陽を責めないでやってくれ。君をおとりに使うことを決めたのは、私だ」

「あなたが?」

「ええ。太陽は最後まで反対していた。そんなことしたら、もう君を口説けなくなるってね」

「え?」

「そんなこと言ってない!!」

 相良さんがあわてて立ち上がった。


「似たようなことは言っただろ? そう言うわけだから浅木さん、非難するなら私だけにしておいてくれ。じゃあ太陽、明日はいつも通りに。新しい案件だ」

 最後の言葉に、相良さんが顔をひきしめた。

「はい」

「では」

 私に向かって優雅に挨拶すると、庄司さんは帰っていった。


「何しに来たんだ、あの人」

 隣でぶつぶつ言っている相良さんの声が聞こえた。


 ようやく私が立ち上がれるようになると、とりあえず二人で部屋に入る。お湯をわかしてコーヒーを入れる間、二人とも無言だった。

 コーヒーを飲みながら、相良さんがぽつりぽつりと話し始めた。


「俺、時々あのスーパーの私服警備員をやってるんだ。ある時、君を見かけた」

「私? いつです?」

「4月のある夜だった。やけに挙動不審できょときょとしているから、最初は万引きでもするのかと思ったんだ」

「えっ?!」

「しばらく見ていたら、君は覚悟を決めたように、ある女性に声をかけた」

 いつの話だろう。全然覚えていない。

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