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「おはようございます、小野先生」

 とりあえず、ぎこちない挨拶を返す。笑おうとしても笑えなくて、緊張した表情になってしまった。

 小野先生は、何事もなかったようにいつも通りの爽やかな笑顔だった。


「先日はすみませんでした。少し、私も動揺していたようです。彼にも、失礼なことをして申し訳なかったと、どうか伝えてください」

 あっさりと言われて拍子抜けする。


 あまりに予想外だったので、はあ、とまぬけな返事しかできなかった。それからすぐに朝礼の時間になってしまったので、小野先生はさっさと自分の席に戻ってしまう。

 私は、すとんと自分の席に座り込んで、大きく息をはいた。


 よかった。どうなることかと思ったけど、わかってくれたみたい。

 朝礼が終わった後、相良さんにラインする。

『小野先生は、すみませんと謝ってくれました。相良さんにもそう伝えて下さいとのことです。なにもなくて安心しました』

 すぐに既読になる。しばらく待っていると、返信が来た。


『それはよかったです。けれど注意は怠らないで。先日言ったことは必ず守ってください。今日は俺も早く帰れそうですが、駅で待ち合わせしますか?』

『今日は職員会議があるので、私は遅くなります。もう心配することはないので、一人で帰りますね』

 わかりました、と返信が来るまではかなり時間がかかった。


 スマホをしまって、安堵の息をつく。もう心配することがないとわかって、なんとなく頬が緩む。


 本当に、いい人だな、相良さん。お礼も兼ねて、今度食事にでも誘ってみよう。

 今回のことは怖かったけど、相良さんと縁ができたのは嬉しかった。うん、怖い思い出だけにするのは嫌だもの。ラッキー、と思うことにしよう。


 そう笑った私の姿を、小野先生が遠くからじっとみていることには気づかなかった。

 

  ☆


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