- 17 -

 そこにいるのは、今まさに心に浮かんだ人だった。


 なんで、相良さんが? 

不安は消えたけど、次に浮かんだのは疑問だ。そして、思いつく。


 もしかして……一晩中、そこにいたの? 昨日の小野先生と私の様子を見て、心配してくれたの?


 壁と電柱の間にもたれるように立っている姿は、ぴくりとも動かない。相良さんのアパートから駅まではこの道を通らないし、こっちの反対側には家ばかりで目的地になりそうなものはない。通りすがりにちょっと足を止めた、とは考えにくい。


 私の……ために?

 私は、カーテンを握りしめた。


  ☆


「おはようございます」

 私が声をかけると、弾かれたように相良さんが振り返った。その目が私みたいにしぱしぱしてたのは、きっと高く上がり始めた朝日のせいだけじゃない。


「おはよう、早いね」

 にこりと笑う姿は、いつもとまったく変わりなかった。

「相良さんこそ」

「ああ、今日は早い仕事があってね。ちょうど通りすがっただけだけど、浅木さんに会えてラッキーだな」

「嘘」

「……?」

「一晩中、ここで見張っていてくれたんですか」

 少なくとも、私が相良さんを見つけてから一時間、彼はここを動いていない。だから、もしかしたら夕べから、ずっと。


 私が言うと、相良さんは短い沈黙のあと苦笑した。

「ばれるつもりはなかったんだけど」

「ありがとうございます」

 相良さんは、思い切り伸びをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る