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「そちらは?」

「わ、私の、恋人です」


 震える声で答えると、小野先生は驚いたような顔になった。

「お付き合いしている方はいないのでは?」

「俺とは最近付き合いだしたんです。あなたこそ、信乃とどういう関係ですか」

 相良さんは、とっさにうまく話を合わせてくれた。鋭い目線に、小野先生がひるむ。


「私は、浅木先生と同じ小学校の小野と言います」

「そうですか。信乃がいつもお世話になっております。では失礼します」

 軽く会釈すると、相良さんは私を促して歩き始めた。


「浅木先生」

 怒ったような声音に、ちらりと少しだけ振り向く。小野先生は、みたことのない無表情の顔をしていた。

「あなたにその人は似合わない。私の誘いを断って、なぜそんな男を選ぶんですか。目を覚ましてください」

「私の好きなのはこの人です。もう、私に関わらないでください」

「私と一緒に行きましょう。私の方がいい男だと、わからせてあげますよ」

「見苦しいぞ。あんたは振られたんだ。さっさとあきらめることだな」

 相良さんが険のある口調で言うと、ぎ、と小野先生は彼を睨みつけた。


「私はあきらめない。これで済むと思うなよ」

「残念だけど、信乃が愛してるのは俺だよ。信乃になにかあったら絶対に許さない。覚えておけ」

 その言葉を裏付けるように、私の肩を守るように抱くともう振り返らずに歩き出す。足が震えてうまく歩けないけど、相良さんが支えてくれた。後ろから見たら、まるで睦まじく寄り添っているように見えただろう。

 小野先生は、それ以上は追ってこなかった。


「ありがとうございます。助かりました」

 しばらく歩いてから、私はようやく息をはいた。相良さんは、私がちゃんと立てることを確かめて手を離してくれた。

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