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「だって、小野先生が言ってたよ。浅木先生と結婚するんだって」

「ええっ?」

 思わず持っていた本を落としかけてしまった。


「しないわよ。小野先生、なにか勘違いしてるんじゃないかな」

「そうなんだー。結婚しないんだね」

「じゃあ浅木先生、僕のお嫁さんになってよ」

「あ、ゆうくんずるいぞ。じゃあ僕も先生のお嫁さん!」

「僕も!」

「私も浅木先生好きー」

 僕も私もと騒ぎ始めた子供たちを微笑ましく見守る。


 二年生って、まだかわいいなあ。

 ほのぼのしかけて、は、と我に返る。


「とにかく。先生はまだ誰とも結婚する予定はないわよ」

「おやおや」

 低い声がして振り向くと、小野先生だった。私は、少しだけ眉をひそめる。

「小野先生、子供たちに変な事言わないでください

「いいじゃないですか。いずれそうなるかもしれませんし」

 くすくすと笑いながら、私を舐めるように見下ろす。あれもこれも文句を言いたいけれど、子供たちの手前ではあまりきついことも口にできない。


「やめてください。私はそのつもりはありません」

「気の強いところも悪くないですね」

 どう返そうか迷っているところで、チャイムがなった。

「みんな、本は借りたかな? まだの人は浅木先生にお願いして。借りた人は教室へ戻るよ」

「はーい!」

 子供たちは口々に言って本を片付け始める。数人の子どもが私のところへ本を持ってきた。


 貸し出しの手続きをしていると、背後を小野先生が通る。

「私は本気ですよ」

 小さい声で言われて、ぞわり、と全身に鳥肌がたった。

 嫌だって、言っているのに。

 もう、無視! 相手にしなければいいのよ。そうすれば、そのうち飽きて他の先生に同じように声をかけるようになってくれるかもしれない。

 こんなことで大好きな仕事をやめたくないもの。私がしっかりしていればいいのよね。


 誰もいなくなった図書館で、私は大きくため息をついた。


  ☆

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