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あの中年の人、私やレジの人が若い女性だったから居丈高だったんだ。しらすさんが来た途端、文句を言うのをやめた。結局、なめられていたんだ、私たちは。
「あそこで声をあげるのは、誰にでもできることじゃないよ。それに、少なくともあのレジの子は君に救われていた。とても、嬉しかったと思う」
私は、しらすさんを見上げる。そんな風に言ってもらえると、少し気が楽になる。
「そうでしょうか」
「うん。それで、あの、決して下心とかないんだけど」
しらすさんは、言いにくそうに続けた。
「よかったら、家まで送らせて?」
「え?」
「もう暗いし、もしかしてあの男がどこかで待ち伏せしていないともかぎらないから」
私が心配していたことと同じことを、しらすさんも考えてくれたんだ。
申し出は嬉しかったけど、私は少し、迷う。
いい人だな、とは思っていたけれど、この人だってどこの誰かも知らない人だ。そんな人に家を知られてしまうのってどうなんだろう。
そう思う一方で、一人で帰りたくないという思いも強かった。だって、本当にさっきは、怖かったから。
どうしよう。
「知らない男に送られるのもいやだろうけれど、心配だから。……あ」
しらすさんは、思いついたようにポケットから財布を取り出した。
「俺、相良。相良太陽っていいます」
そう言って差し出したのは、免許証だった。確かにそこには、相良太陽という名前と目の前の人の写真が載っていた。本人が出したとはいえ個人情報には違いない。あまりまじまじは見なかったけど、ゴールドのラインが印象に残った。
真面目な人なんだな。
「私は、浅木信乃です。じゃあ、途中まででいいですけど、お願いできますか?」
「わかった。浅木さん? じゃあ、帰ろうか」
「はい」
私は、相良さんと並んで歩き出した。気を使ってくれたのか、相良さんは明るく話しかけてくれる。
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