- 5 -

 向こうも私に気づいて、にこりと会釈してくれた。今日は、かごいっぱいにお肉を買っている。鶏肉、特売なのね。

 こないだはキャベツを3玉買ってたし、一体何人家族なんだろう。


 想像している自分に気づいて、誰ともなく照れる。

 やだ、これじゃ私、ストーカーみたい。

 特売の鶏肉を私も買って、レジに向かう。人も多いからレジも混んでいたけど、ひとつだけ短いレジがあった。

 不思議に思いながらそこに並ぶと、レジのところに若葉マークがかかっていた。


 ああ、研修中の方なのね。急いでいる人は、ベテランさんのとこに並んでいるのか。

 私は急いでもいないので、のんびりとそこで順番を待つ。

 新人さんかあ。いつから入ったのかわからないけれど、私と一緒だね。


 私の前の人の順番になった。中年の男性だったけど、長く待たされてイライラしているらしく、乱暴にかごを置く。

「お待たせいたしました」

 レジの人は、若い女性だった。私と同じくらいかな。疲れている様子がわかる。


「さんざん待ったぜ。とっととしろよ」

 中年の男性が乱暴な調子で言った。びくり、とレジの人が肩を揺らす。おびえてしまったのか、何度も打ち間違いをしていた。

「段取り悪いなあ、おい。なめてんのか」


 大きな声ではないから、どうやら他の店の人は気づかないみたい。でも、ねちねちと絶えず続く文句に、レジの人の手が震えているのが見えた。

 ああ、あんなふうに言われたら怖いよね。

その様子をはらはらしながら見ていると、ついに中年の暴言に耐えられなくなったのか、レジの女性がぽろりと涙をこぼした。


「そ、そんなに言わないでください」

 私は、ついにがまんできずにその中年に言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る