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「お疲れ様です、小野先生」
さりげなく手をはずして、そつのない答えを返す。小野先生は、席へ戻ろうとする私のあとをついてきて言った。
「浅木先生はもうお帰りですか?」
「はい」
私は小学校の司書をしている。教諭とは違うので、図書室が閉まったら仕事は終わりだ。
「私ももう終わりなんです。どうですか、帰りに食事でも」
「いえ、私は」
「いいじゃないですか。美味いレストランがあるんです」
「今日はちょっと用事が」
「では、明日はどうです?」
「あの……」
「小野先生」
じりじりと追いつめられていると、教頭先生が小野先生を呼んだ。
「今度の遠足のことで確認があるんですが」
小野先生は教頭先生を一瞥すると、もう一度私にお疲れ様でしたと言って教頭先生の方へと歩いていった。そのすきに急いで私は荷物をまとめる。
「今のうちに早く帰っちゃいなさいよ」
5年担当の今井先生がこっそりと耳打ちしてくれた。
「しつこいのよね、小野先生。信乃ちゃん先生が嫌がっているの、わかんないのかしら」
「何度もお断りはしているんですけど……」
小野先生が誘ってくれるのは、初めてではない。私の何が気に入ったんだろう。
「無理に行くこと無いわよ。ほっときな」
「あら、せっかく誘ってくれているんだから、食事くらい行けばいいのに。断ってばっかりだと、お高くとまっているみたいよ?」
背後から笑いを含んだ声が聞こえて、ふりむくと音楽の沢田先生と3年の山口先生がこっちをみていた。
「浅木先生、新卒だし一番若いもんね。男ってやっぱり若い娘の方がいいのかしら」
「若いって、武器よねー。でもそんな武器使えるの今だけよ? 誘われて浮かれているんでしょうけれど、じらすのもほどほどにね」
言うだけ言うと、二人はくすくす笑いながら印刷室へと入っていった。
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