- 2 -

 スーパーを出て、暗くなった道をアパートに向かう。

 あの人、初めてしゃべっちゃった。

 彼は、よくこのスーパーで顔を見る人で、実は、ちょっとかっこいいな、なんて思ってたんだ。

 初めてあの人を見たのは、同じかごに手をだして譲ってくれた時。やっぱりその時もにこにことしていて、その笑顔がとても素敵だった。次に見た時には、お年寄りの荷物を持って車まで運んでいた。いい人なんだなあ、とそれからなんとなく目に入るようになっていたんだ。


 さっきの出来事を思い出して、ふふ、と笑う。

 二人でいたら、夫婦に見えたのかな。おかあちゃん、だって。


 でも、しらす5パック。一人暮らしの量じゃないよね。夕飯のおかずかな。きっと家に帰れば、いいパパなんだろう。あの人、そんな雰囲気を持ってた。


 短大を出て就職したばかりの私は、まだ二十歳。初めての一人暮らしを満喫しつつも、慣れない仕事と生活に四苦八苦しているところだ。

 そんな中で彼は、一服の心の清涼剤だった。別に、告白したいとか彼氏になってほしいとか考えていたわけじゃない。でもたまに見かけてちょっと嬉しくなって。アイドルみたいなものかな。


 あー、残念。

 お行儀悪くしらすのパックを振りながら、私はのんびりとアパートへの道を歩いていった。 

 

   ☆


私は、図書室に鍵をかけて職員室へと向かう。


「浅木先生、お疲れ様でした」

 鍵を保管箱に戻していると、低い声がして、ぽん、と肩に手を置かれた。

 振り返らなくてもわかる。そこにいるのは、背の高い眼鏡をかけた若い男の先生。産休代理で2年生の担任をしている小野先生だ。

 私は気づかれないようにため息をつくと、振り返った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る