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スーパーを出て、暗くなった道をアパートに向かう。
あの人、初めてしゃべっちゃった。
彼は、よくこのスーパーで顔を見る人で、実は、ちょっとかっこいいな、なんて思ってたんだ。
初めてあの人を見たのは、同じかごに手をだして譲ってくれた時。やっぱりその時もにこにことしていて、その笑顔がとても素敵だった。次に見た時には、お年寄りの荷物を持って車まで運んでいた。いい人なんだなあ、とそれからなんとなく目に入るようになっていたんだ。
さっきの出来事を思い出して、ふふ、と笑う。
二人でいたら、夫婦に見えたのかな。おかあちゃん、だって。
でも、しらす5パック。一人暮らしの量じゃないよね。夕飯のおかずかな。きっと家に帰れば、いいパパなんだろう。あの人、そんな雰囲気を持ってた。
短大を出て就職したばかりの私は、まだ二十歳。初めての一人暮らしを満喫しつつも、慣れない仕事と生活に四苦八苦しているところだ。
そんな中で彼は、一服の心の清涼剤だった。別に、告白したいとか彼氏になってほしいとか考えていたわけじゃない。でもたまに見かけてちょっと嬉しくなって。アイドルみたいなものかな。
あー、残念。
お行儀悪くしらすのパックを振りながら、私はのんびりとアパートへの道を歩いていった。
☆
私は、図書室に鍵をかけて職員室へと向かう。
「浅木先生、お疲れ様でした」
鍵を保管箱に戻していると、低い声がして、ぽん、と肩に手を置かれた。
振り返らなくてもわかる。そこにいるのは、背の高い眼鏡をかけた若い男の先生。産休代理で2年生の担任をしている小野先生だ。
私は気づかれないようにため息をつくと、振り返った。
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