破滅の序章2


 今から5年前、全世界で発生した災害はダンジョンが現代社会に現れただけではなく、その内部から無数のモンスターと呼ばれた存在が溢れ出て来た事も含まれている。

 

 溢れ出た個体は町を破壊し、そこ住む人達を無残に虐殺して亡骸を食い散らかし、世界を終わりへと引きずり込もうとしたが結局は各国の軍や自衛隊の奮戦により外にいた者は殲滅する事が出来た。


 その際の死者は数千万人と言われ、その数の中には両親と妹も含まれている。


 「それがまた…?」


 しかしダンジョンの管理は国が膨大な資金と使ってまでしているはずだ、Sチル達も内部に入り敵と戦っている以上溢れ出る事は考えられない。


 「しっかりしなさい司!貴方私たちのリーダーでしょう!」


 当時の事を思い出しながらボソボソと呟く俺に怒気の籠った千秋の声が投げつけられる。


 「そうだぜ、混乱してんのは皆同じだ、でもよ、お前が一番しっかりしてくれねぇと俺達も不安になるんだぞ」


 不安や恐怖は伝染する、確か何かの本でそんな事を読んだ気がするが今の自分の状況を考えるとこの場にいる仲間達にその感情を振りまいているのは間違いなく俺だろう、なら気が付いたここでその感情は押し殺さなければならない。


 「ああ、すまない」


 へたり込んでいた地面から立ち上がり土の付いた部分を手で払って両手で自身の頬をきつめに叩いた事により気合を入れ直す。


 「先ずは…確認だ、此処が俺達の知る野崎ならダンジョンの入り口には管理の為の建物があるはずだ、そこに行こう」


 考えてみればおかしな点が存在する、今自分達が出て来た歪みの場所だが本来建物の中にある扉により守られているはずなのだ、それが何故か社の正面にその存在が表れている。

 それなら本来の場所はどうなっているのかを見る必要があるだろう。


 「一人で抱え込まないで下さい、貴方には私達がいます」


 今だ本調子に戻らない俺に傍に寄って来た琴音がその小さめな手で俺の手を包み込む。


 「泣きたくなったら何時でも言いなさい、男爵の胸を貸してあげるわ」


 そこは自分の胸だろうとつっこみそうになるがギリギリで何とか思いとどまる、下手にそんな事を言えば要らぬ罵声が飛んでくる事が解っているからだ。


 「サンキュー、もう大丈夫だよ、行くぞ!」


 沸々と湧き上がる暖かい物が体の中心から全体へと広がって行くのが何となく感じ取れる。

 一人では立ち上がるまでにどれ程時間が掛かったか解らない事もこうして傍に寄り添ってくれる人がいるだけで支え合って歩く事が出来たのか。


 人は一人では生きられない、これも何かの引用だが支え合って生きて行く事の大事さをまだ幼い少女達から教えられる事になるとは思いもしなかった。


 「ほら呼んでますよ!」


 琴音が握ったままの手を引いて先に進んだ野上達を追いかけるが何となく空いているもう片方の手を男爵を担いだままの千秋に伸ばしてその手を掴み、一緒に引っ張って行く。


 「やっと来たか、見ろよあれ」


 手を繋ぎながらも追いついた俺達に野上が手でその方向を示す為全員んが同じ所に目を向ける。


 「あれ?…何かおかしくないですか??」


 視線の先には自分達が何度と通ったダンジョンの入り口を守る建物があるのだが、現在それは内部にあるだろう扉ごと倒壊して歪みの存在は確認出来ない。


 しかし琴音のいう通りに何かがおかしいと感じてしまう、元の状態であればすぐに気が付いたはずなのだが…。


 「あたしもそう思うんだけどさ~、何がおかしいのかがわっかんねぇんだよ」


 「まぁ考えていても仕方が無いし他の場所にも行って見よう、そうだ携帯は―」


 ズボンの中に入れっぱなしとなっていたスマホを取り出して画面を見るが。


 「電波がねぇ…」


 もしかするとと言う思いもあったがこの状況では仕方がない。


 「となると次は知り合いの安否か…マンションに行って見るか?」


 「そうだな、でも下があの様子じゃ間違いなく敵が居るぞ、戦闘をどうするかを考えないとな…」


 「ん?どういう事だ?」


 別におかしい事を言ったつもりは無いのだが、野上は俺の発言を聞いて眉を寄せて顔を傾げる。


 「どうってダンジョンの中じゃないんだぞ?俺達はまだましかもしれないが、女子達はかなり影響があるだろう?」


 「何だよ気づいてなかったのか、ほれそっちを見ろよ」


 何となく投げやりな彼の態度だが言われた通りにその方向を向くとそこにはただ一人、男爵を担いだ千秋がいるだけだ。


 「千秋ちゃんが元からゴリラじゃないんなら男爵を担ぐなんて内部でもなきゃ出来ないだろ?つまり今の俺達は内部と力は同じって事だろ」


 「ああ!!」


 言われてみればそうなのだ、ここに出て来た時から千秋は武器である男爵を担いだままだ。


 「なら問題ないか」


 「大有りよ、誰がゴリラなんて不名誉な呼び方を許したのかしら?男爵、この男のあれを潰してしまいなさい!」


 担ぐ武器を高らかに掲げて振り下ろす準備に入った千秋に顔を青くした野上が必死に謝っていつもの自分達の空気にと戻って行き、その心地よさを感じながら一通りの制裁が終わった所で神社から麓へと移動をしてマンションに続く旧外環状線に出る。


 「まぁやっぱりこうなるよな」


 北南に走る国道から風に乗り煙く血生臭い空気が漂い、嗅いだ全員の気分を悪くさせて胸の内から不快感を引きずり出す。

 恐らく無雑作に乗り捨てられた車から上がる煙やフロント部分に付着している赤い液体、周囲に見て取れる無数の死体に千切れた四肢である手や足、そして臓物などそれら全てがその臭いの原因だろう。


 そしてそれらを引き起こしたであろう者達が民家や路地の死角となる場所から一体一体と集まりだし、徐々に数を増やして対面一車線の道路を埋め尽くして北の進路を封鎖していく。


 「ゴブリンにウルフが大半だけど見た事もない個体も混じってるな、何だあれ」


 「何だろうと構わねぇよ!こうなったらやる事は一つだろ兄ちゃん!」


 「ああそうだな!周りの被害なんて気にせず全部叩き潰して兎に角先に進むぞ」


 それぞれ武器を構えて戦闘準備に入ると陣形の中間にいた千秋がそれを聞き先頭に出て担ぐ男爵を一度振り回して持つ手に力を蓄える。


 「解りやすくて助かるわ、加減をするのって…面倒なのよ!」


 言葉の語尾を強くして自身の頭の上で男爵を回し続け、遠心力が乗った所で渾身の一撃を横に振って繰り出して最前列に居た敵の一団を扇状に吹き飛ばす。


 「邪魔だごるぅあぁ!」


 上空に打ちあがる者や後ろに居た個体にぶつかり巻き込んではじけ飛ぶ敵に追撃の為に夜霞で横一文字を放ち一度に数体をまとめて潰し、その横からジャンティが素早い槍運びで次次と刺し、反対側からは琴音が桜花流・霞草で細切れにする。


 「動きの速いのは任せろ、それ以外をまとめて頼んだぜ!あと千秋ちゃんは俺のフォローもよろしくな!」


 敵の間を縫って放つ矢で比較的早いウルフを狙って野上が仕留めて、言われた通りに傍で千秋が近寄って来た個体を男爵で吹き飛ばして民家の塀を巻き込みながら破壊した。


 最前線で押し寄せる敵を次々と倒して減る気配が一向に無い埋め尽くされた道路を全員で目的地のある北方面へと進み続ける。


 


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