やっぱこれだわ
館から俺の後を追ってやって来た全員は目の前に広がる光景に度肝を抜かれて放心し、この先の予定はどうするのか?と言いたげな視線を向けて来る。
しかしそんな目をされても自分も同じ状態なんだがと考える事を一度放棄し、夜営の為のスペースを作りにかかりその様子を見た他のメンバーが察した様に同じく足元に生える草を抜いてテントや団欒をする為のスペースを作って行く。
「今回の順番はどうするよ、こっちは…どっちを選んでも同じそうだし任せるぜ」
無心で草を抜いてから地面を踏んで固めてテントを張り始めた俺に同じく準備をする野上が手を止めずに言うがその内容は見張りに関してだろう。
前回のジャンティは早々に眠りに付いた為今回も同じ様になるだろうと考えた様だ、だがそれはこちらも同じ事で琴音が起きていられるとは思えない。
「あ~それなら前回と同じで行こう、揺さぶったら琴音は起きてくれるしジャンティの事も考えたらその方がいいだろ」
そして問題は千秋の扱いをどうするのかだが―。
「私は司と同じでいいわよ」
草むしりが終わり食事の準備を始めた女子組みの中で千秋が先んじて自らそう言ってくれた事で頭を悩ませる必要が無くなった。
どのみち彼女とは少し話しておかなければならない件があるのだ、一緒でいいと言ってくれる事には正直助かる。
その後は話は決まったと全員で食事を取って先に仮眠を取るべく前回よりも少し大きめなテントの中で左に琴音、右に千秋と川の字で寝転がり、すぐに寝てしまった琴音の抱き着きに身動きが拘束されて何故か遠慮がちに背中に触れて眠る千秋の存在を感じながら眠りに付いた。
数時間後に野上の声で交代を告げられて三人でテントの外へ出ると、やはり前回と同じく抱えられたジャンティが既に眠りに付いていて野上を見送り自分達が今度は見張りをする。
「この子本当に抱き癖が凄いのね」
現在琴音は地面に広げた寝袋の上で隣に座る千秋を抱きしめながら夢の中へと旅立ってしまっている。
「千秋も眠くなったら寝て構わないぞ」
「私は起きているわよ、それよりも司?男爵に何をしているのかしら?」
ダンジョンの中では電波など無い為夜営の見張りとなれば正直に言って暇なのだ、この時間もどうやって時間を潰していようかと思った所で俺達のスペースに置かれている千秋の武器である男爵が目に入り、その甲冑が全損していたのだと思い出した事で今現在俺は男爵に色々と着せてたり付けたりしている真っ最中だ。
「だって全裸とか可哀想じゃん、せめて何か着せてあげたいなって」
「まぁ好きな様にすればいいけど殴った時に取れるわよ?」
そうなった時はまた着せてあげようと心に決めて作業に取り掛かる。
「…聞きたい事があるんじゃないの?」
男爵の腰に変えの服として持って来た物を巻いて結ぶ。
「まぁね、流石にあれは気づくさ」
「でしょうね、まぁいいわ、私は自分の意思でペアを選ぶ事が出来た、そう聞いていると思うけどそれは少し違うわ、今も私は自分の意思で相手を選べるし、その対象者を変更する事が出来るのよ」
「それってどうやって?何かやり方とかあるの?」
次は上半身に赤いTシャツを被せる。
「あるわ、パスを他の人と繋ぎ変えるには前任者よりも多く直接肌を触れさせる必要がある、今回で言うと司と手を握り合ったあれね、私は前任者とはパスをつないでいただけだからその程度で済んだのよ、今後司から他の人に切り替える時はもっと過激な接触が必要になるはずだわ」
「過激ねぇ…それってどの程度?」
ジッと見るが何かが足りないと思い今度はチェックの上着を右肩から斜めに懸ける。
「乙女にそんな事言わせる気?」
「あ~いや、何でもない」
そこは聞かない方が言いようだ。
「琴音とのパスも繋がったままだし、問題が無ければ俺はいいんだけど千秋は良かったのか?」
「あの場ではそれしか無かったでしょう、それに繋がったおかげであの変態は撃退出来たんだもの、結果オーライよ」
確かにそれはある、千秋とのパスが繋がった恩恵で俺自身の力の上限が上がり、あのやり方で結果を出せた。
「ちょっと?そこは斜めにするのではなく、そのまま下に降ろしなさい」
「え~でもそれだと取れるじゃん」
「一旦下で結んでから反対側の脇あたりでもう一度結ぶと落ちないわよ」
そう言うのならと言われたやり方でやってみる。
「所で今の現状だと琴音だけじゃなく千秋ともペア組んでる事になるだろ?こうなった場合住む場所とかはどうなるんだ?」
「どうなのかしら、基本ペアは一緒に住む事になってはいるはずだけど…帰って聞いてみない事には…」
更に男爵をジッと見るがやはり何かが足りない。
「琴音にも話さないとな、確信がなかったからまだ話してなかったんだが、こうなると言わないって選択肢は無いしな」
「そうね、私から言った方がいいのかしら?」
千秋は自身に抱き着いたままの琴音を見て軽く背中を撫でる。
「いや、そこは俺が説明するよ、その後は…死んでたら骨を拾ってくれ」
試しに側にある色の違う草を抜いて編み込み、それを男爵の腕に巻いて括り付ける。
「やめなさい貧乏臭いわ」
「いやでも何かが足りなくない?」
「それなら私のリュックに色々と入っているからそこから選べばいいわ」
先ほどまで三人で使っていた自分達のテントの中で大きさから比較的外側に近い位置に置いてあるリュックを指して言われ、まぁ見てみるかとチャックを開いて中を漁ってみる。
「言っておくけどその中には下着なんかも入ってるから関係の無い物には触れない様になさい、まだ警察に捕まりたくはないでしょう」
「そんな所を探させるな!」
万が一間違ってそれを触った日には琴音に何を言われるか解った物では無い。
「仕方ないじゃない動けないんだもの、貴方がこの状態にしたのでしょう」
それはまぁそうなんだがと細心の注意を払いリュックの中を物色するといくつか色の違う紐と髪留めを発見出来た。
「これだけあれば…」
先ずは青と白が混じった髪留めを腕に腕に付けるがやはり違う、ならばと紐で着せた服を縛ってみると意外といい。
「貸しなさい」
色々と悩んでいる俺に千秋が手で出した物を渡せと言って来るのでそれを差し出すが、まだ使える物があるとリュックの中を言われた通りに探していき今度は小物を彼女に渡す。
「これを腕と首周りに付けなさい」
紐で括って落ちない様にした物を言われた通りに男爵へと付けて行くとしっくりこなかった物がいい感じになって来た。
「後はそうね…何が足りないのかしら…」
「なんかこう…最後の決め手がねぇよな~」
完成はすぐそこだと言うのにまだ何かが足りない、そう感じた二人は周囲を見渡して行くと一つの物で目が留まる。
「あれじゃない」
「あれっぽいな」
意見が合ったならきっとそれが正解だと置かれていた物を拾って男爵の手にそれを持たせる。
「やっぱこれだわ」
「完成ね」
悩みに悩んで協力し合った初めての共同作業の結果は男爵を――。
「どう見てもマサイ族やんこれ」
騎士の地位を返上させてアフリカの民族、マサイ族へと転身させていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます