芸術


 内部を進む陣形は前衛に女子組、後衛に野郎ふたりという前回の遠征と同じではあるが、本来荷物を持っている事から後方に居るはずの千秋は他の二人と会話をする為に前に出ている。


 顔合わせをした際にはどうなる事かとヒヤヒヤしたが今の様子を見る限りでは何も心配はないだろう。


 「学校での会話が無ければ意味が解らんかったがこう言う事か」


 「ああ、先言っておいて正解だっただろ?」


 開口一番ジャブも無く右ストレートで殴られる程の衝撃をうけたで有ろう【馬】は、何度か頷いて返すのみでこれからの対応を考えている様にも見えた。


 暫く変わる事のない道のりを進んで行くと急に千秋が道の側で倒壊した建物を一瞥して近寄って行くので全員で後を追う。


 「どうした?何かあったのか?」


 初見の時は周りを見ながら移動していたが、何度か来るうちにそれも無くなりただ前に進むだけとなっていて、もしかすると自分達が見落としていた何かを見つけたのではないだろうか。


 「これを見てみなさい」


 問いかけに千秋が顎をシャクって示すが、そこにあるのは建物と同じく朽ちて倒れた凡そ2メートル程の石柱が有るのみだ。


 「ん?」


 言われた通りに見てはいるが変わった様子も無く、彼女が何を言いたいのかが解らない。


 「理解出来ないかしら?倒れた事により出来たこの断面、朽ちた歳月を示す欠け具合とその汚れ、それら全てがこの石柱を芸術として昇格させた一品に変化させているのよ」


 「お、おう…」


 一応返事はしたものの千秋の意図が解らず、周囲に居る他の面子に視線を向けるが概ね全員が自分と同じ感想の様で首を傾げる。


 「気に入ったわ、これにしましょう」


 満足そうに頬を緩めた彼女は無造作にその石柱を鷲掴みにして軽々と持ち上げ、そのまま自身の肩に担いでしまう。


 「え!?それ持って行くの!?」


 「勿論よ、武器も無しに戦えと【豚】は言うのかしら?」


 放心する俺達を背に一人先に歩き出した千秋を追って二人が再び合流して会話を再開させる。


 「スゲーなあれ、キングコングじゃん!そのうち琴音ちゃんでも片手で掴んじまうんじゃねぇか?」


 「その時はかなり高い建物が必要だからそこには行かないでおこう」


 昔見た映画に女性を掴んで高層ビルの上に登って行ったゴリラがいたが、あれと同じ事をされると手の出しようがない。


 「通り名ゴリラで良かったな」


 「やかましいわ!この馬が!!」


 その名は望んで付けた訳では無いと知っているだろうに弄って来る奴に対し悪態を付きながらも先に進んで行き、問題らしい物は一切なく出会った敵は琴音とジャンティが瞬殺して、大神殿へと着いたのは以前よりも大分早い時間帯だった。


 「さて、用意をするか」


 此処までの道中では自身が戦わずに済んだがこの先にいる敵はそうは行かなだろう、敵の人数を考えると全員で行き即終わらせた方が安全だ。


 背負っていたリュックを地面に降ろして全員の準備が整った事を確認するが、どうしても体に合わない石柱を担ぐ千秋に視線が行ってしまう。


 「その武器で本当に大丈夫か?」


 「大丈夫よ、問題ないわ」


 誰の心配をしているのだと言いたげな千秋は、石柱を担ぐ側とは逆の手で髪を軽く払い準備は出来ていると態度で示す。


 一様念のためにフォローに入る事を考えて戦闘を開始し、一番手で琴音が突っ込みジャンティと俺がよそ見をする個体を狩って行き、馬が矢で唯一魔法を使う個体を倒していつもと変わらない状態を作り出すが、内部の中央付近で千秋と敵が対立する様が見えた。


 「千秋!」


 名前を呼んで大丈夫かと駆け寄ろうとした俺に彼女は手で来るなと押し留める。


 「最後に言い残したい言葉はあるかしら?聞いてあげてもいいわよ?」


 向かい合う敵に向かって自身が絶対的な強者であり、勝てる要素など皆無だと通告して処刑前の懺悔にも思えるやり取りを始め、軽々と石柱を片手で頭上に掲げた。


 明らかな挑発行為にカチカチと歯を鳴らして大神殿の守護者が大きく口を開き唸り声を発する。


 「グァ――!」


 しかし発したその声は振り下ろされた石柱により頭部が破壊された為に途中で途切れ、体の上部から順番に押しつぶされて轟音と共に地面に石柱が接触すると、その威力と重量の衝撃が地に伝わり亀裂を生み出して土埃が舞い上がる。


 「黙りなさい」


 反響する音が消え去るとその場には数秒前までは身体であった肉塊と黒い体液の飛び散った痕だけで、周辺には武器として扱われた石柱の破片が散らばりっていた。


 これでは魔石の回収は無理だろうなと諦めて半分程の長さになってしまった石柱を持つ千秋の側へと移動する。


 「最後の言葉を聞いてあげるんじゃなかったのか?」


 敵相手に配慮もないが、途中で止められてしまった事に対しては何となく哀れに感じてしまう。


 「聞いてあげてもいいとは言ったけど、あげるとは言っていないわ」


 漂う土埃を手で払って持っていた残りの石柱をその辺へと投げ捨てた彼女は両手を軽く払う様に打ち合わせる。


 どうやら教育が心配になって来るのはジャンティだけではなく、この子もその仲間入りらしい。


 「音にびっくりして漏らすところだったぜ…」


 汗など掻いていないだろうに服の袖で額を拭ってそう言うジャンティに自分も同じだと琴音がその隣で頷いている。


 「なら二人が漏らす前に二層に行こう」


 大神殿であるこの場には隠れる場所が無いため出そうと思えば他の人から丸見えの状態でする必要があるのだ、勿論そんな事は拒否されるだろうしと二層への移動を荷物を再び担いで再開した。


 「なぁ、なんか歩くの早くないか?」


 先日のペースと比べれば明らかに早くなっている移動速度に野上が気づいて問いかけるがそれは解り切っている理由からだろう。


 「それだけ二人とも漏れそうなんだろうよ」


 尚も徐々に早まって行く速度に少女達の状態を感じ取り、男二人も急いで駆け上がった事で二層に付くが、そのまま止まる事なく三人は庭先へと走り去っていく。


 「あの様子だとマジでギリだったぽいな」


 暫くするとスッキリとした笑顔で戻って来た三人と交代をして少し休憩を挟んだ後に館の中へと入り、今日の目標を決めようと思う。


 「前回の続きで一階の廊下の奥に行くか、違う場所に行くかだな」


 「突き当りから左に曲がっているのは確認出来ましたし、逆側から進んでみるのもいいかもしれませんね」


 「あたしは二階の部屋なら何かありそうな感じがするしそっちかな~」


 「俺も二階に1票かな、そっちの方が書斎とかありそうだしな」


 ペアに別れて意見も分かれた、ならここはもう一人の人物の意見で決めるのがいいだろうと千秋を見るが、彼女は俺達から少し離れた壁沿いに立つ物の所に行ってしまっていた。


 「千秋どうした?」


 何か一層でもこのやり取りをした気がするが気のせいであって欲しい。


 「美しいわ…これぞ芸術よ…」


 聞き覚えのある内容だがそれが気のせいではないと教えてくれている様だった。






**************************************


 あとがき失礼します、この34話でようやく10万時を達成出来ました、読んで下さっている方、☆を下さった方、フォローをして下さっている方本当にありがとうございます、当初の目標は今回で達成出来ましたので次の目標に向かって執筆して行きますので今後とも大阪ENDをよろしくお願いいたします。

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