違和感の正体


 距離を空けられての庭の探索はこれといった成果も無く、結局は帰路に就く事となったがその道中にて又しても問題が発生した。


 一層に戻り大神殿からの帰りの道中にある神殿の中に置いたままになっている槍騎士の防具を、自分と琴音の防具として加工出来ればと思い回収をする為に寄ったのだが、当然そこに行くと言う事は槍にご執心のジャンティにすでに槍がそこには無いと知らしめる結果となる。


 それを知った彼女は槍は何処だと縋り付いて泣き出し、慌てた俺が槍は調査の為預けてある事とそのうち戻って来ると口を滑らせ、必ず見せると約束した事で何とか落ち着きを取り戻した。


 戦闘以外での出来事により疲れた体が重くなり、歩くのが億劫にもなるが残る訳にも行かず足を進めて俺達一行がダンジョンから帰還した時には既に夜も遅い時間帯となる。


 「司さん眠いです…」


 「もうちょい頑張ろうな」


 既にお眠となっている琴音を励まして連絡をして迎えを頼み、咲田さんが来た時には結局女子二人が夢の中へと旅立っていた為二人してそれぞれの相方を抱き抱えて車に乗り、一先ずマンションに着いた事で解散となった。


 「今回の遠征お疲れ様!」


 リビングのソファーに座ってため息を付いた時にこの場にいる二人の人物の片側である咲田さんが紅茶を差し出しながら労いの言葉を贈って来る。


 「本当に疲れましたよ…」


 「それで?お姫様はどうしたの?」


 車からの荷物の運搬などが残っていたのだがその全てを咲田さんが引き受けてくれた為、俺は琴音を抱えて先に家に戻り彼女を寝かせたのだ。


 「ちゃんと寝かせて来ましたよ」


 「そう、明日は学校だし、琴音ちゃんも疲れを残さない様に柔らかい自分のベットで寝てまた明日から頑張ってもらわないとね」


 「あ~、いえ、琴音は俺のベットで寝ています…」


 「えぇ!?」


 ティーカップを持ち口を付けかけていた紅茶を離して驚愕の声が出す咲田さんだが、勿論ちゃんとした理由が有ってそうなったのだ。


 「琴音って寝る時には抱き癖があって、あの子の部屋に連れて行ってベットに寝かせたんですけど、服を掴んで離してくれなかったんですよ、使っているっぽい抱き枕を押し付けても駄目で、抱き抱えたままも辛いのでしばらくすれば離すかと思って俺もベットに横になって待とうとしたら…何故か俺の枕を抱き抱えて…そのまま寝てます」


 「そ、そうなんだ、まぁ同衾ぐらい既に何度もしてるしいいでしょう、それよりダンジョンの話をしましょ」


 軽く咳ばらいをして一旦会話を変更させた彼女だが、俺自身もこの人に報告や聞きたい事が結構ある。


 「先ずは私から報告しておくわね、槍の件だけど美術品としても一つの武器としても一級品だと判断された事で国に渡してくれるなら買取と言う形で一千万程と考えているみたいよ」


 「い!…結構な金額っすね…」


 槍一本でこの金額を出してくれるとは…国も調べた結果欲しくなったのだろうか、しかしこうなって来るとジャンティにそのまま渡すのも何だか少し躊躇われる。


 後で一様査定の値段をラインで送っておこう。


 「まぁどうするかはゆっくり決めて頂戴、次にランキングね!今回持ち帰ってくれた本の価値はこちらも調べて見ないと何とも言えないわ、だから反映されるのは現時点で槍の分を含めた物で、貴方達は11万9872位から9万5631位になりましたおめでとう~!」


 パチパチと両手を叩いて賞賛をする彼女だが、元の桁数がとんでもない為上がったと言われても何かが変わる訳でもなく、正直余り興味が沸かない。


 「あ~ありがとうございます…」


 「素っ気ないわね~、まぁいいわ!私からは以上かな、司君の方から聞きたい事が有ればどうぞ」


 いくつかある質問の中でやはり一番聞いておきたい事はあれだろう。


 「何度か内部に入っている内に俺自身の身体能力が上がっているんですが、何か知っていますか?」


 「あ~もう体感出来るぐらいにまでなっちゃったか~、まぁ二人の仲を見る限り早そうだとは思ってたんだけどね~」


 話している為自然と口の中の渇きを感じ、お互いに一口飲んでホッとした所で続きを話す。


 「Sチルとペアの間には目に見えないパスが通り、そのパスによって死という現象ですら共有する事になる、しかし相互に共有するのはそれだけでは無いの、琴音ちゃんのSチルとしての力が勿論ダンジョンの中限定では有るけど、ペアとなった司君にもパスを通じて流れ込み、その影響を受けて身体能力も向上したって訳よ」


 「あ~なんかそう言われれば納得できますね」


 琴音曰く成人男性以上の力を発揮したあの投擲だが、やはりただの筋肉が付いただけの話ではないようだ。


 「あ~でも勘違いしないでね、誰でもそうなる訳じゃないわ、琴音ちゃん側の弁が開かないと当然その力は流れないのよ」


 「ん?どう言う事ですか?」


 疲れから来る物だろうか、いまいち頭がハッキリしていない感じがして意味を理解しずらい。


 「つまり琴音ちゃんが司君に心を許していない場合はその弁は本来開く事の無い物なの、彼女が君を信頼し、淡い思いを抱いた結果心の枷が外れて弁が開き、君に力が流れ込んでいるって訳ね!」


 「いやちょっと!それ言っちゃっていいんですか!?」


 眠り続けている彼女であるが、自身の知らない所でその思いを他人から勝手に伝えられたと知れば、どうなるか……。


 「因みに接触する事でその効果が上がる事も実証されているわ、ランキング上位の人達の強さは全員その恩恵を受けている人達って事ね」


 そう言われてみれば、確かに何となく感じる様になったのは琴音からの接触が増えて来た時からだ、気になっていた事の理由が解ったのは良いが、これを琴音に話す事は俺には出来そうに無い、お黙り下さいで済めばいいが、その程度では終わらないだろう。


 「司君も疲れているし、とりあえず今日の話し合いは次の質問で最後にしましょ、何かあるかしら?」


 「はぁ…それなら相談が一つ、ダンジョンの中から物を持ち帰るのに今のカバンやリュックではちょっときつくなってるんです、今回の本もそうですが嵩張る物が多くて戦闘に支障をきたしそうなんで、何かいい方法が無いかと」


 何気にこの件に関しては悩みの種になりそうなのだ、俺達のメンツでは後衛は野上一人で、だからと言って荷物の全てを持たせるなんて事は出来はしない。


 「ん~そうね~……」


 再び紅茶を口にした後で自身の顎に手を当てて考えてくれている為それを黙って待つが、何やら聞き取れない程の大きさで暫くブツブツと呟いた。


 「…そうね、いいわ、その件に関しては私の方で手を打っておくから少し時間を頂戴」


 「それは構いませんが、大丈夫ですか?」


 「ん~どうかしら…まぁ今日はここまでにして寝ましょう」


 話は終わりだと紅茶を飲み干し、後の片づけは自分がやると言い張る彼女に押されて部屋に戻ると微かに聞こえる寝息に気づき、なるべく音を立てない様に着替えを済ませて自分も寝ようとするが―。


 「これ俺どこで寝よう…」


 相方である琴音がベットを占領中で有ったのをここに来て思い出したのだ。


 何となく先ほどの聞いてはいけない話が残っていて少し躊躇するが、明日の事も考えると自身も寝やすい場所で眠りたいと彼女の隣で横になり目を瞑るが、傍らで何やらゴソゴソと動く気配を感じ取る。


 (あれ、起きちゃったかな…)


 自分もそうでは有るが、寝ていても人の気配を感じると何故か目を覚ましてしまう人がいる、彼女もそうなのかと薄目を空けて確認をすると。


 (え?ちょ!?)


 琴音は抱き抱えていた俺の枕をポイとその辺に投げ捨ててジリジリとにじり寄り、腕の中で納まる位置に到達すると服を掴んで動かなくなる。


 本当は起きていてわざとやっているのでは無いかと疑いたくなるが、規則正しい寝息と彼女の性格からしてそれは無いかと思い直す。


 それにしても――。


 (枕は投げるぐらいならこっちに欲しかった)


 普段より低い頭の位置に違和感を感じながらゆっくりと瞼を閉じて眠りに入り、今回の遠征は終わりを迎えた。

 

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