君にはまだ早い!
その後全員で食事を取り軽く雑談しながら過ごすと、琴音が軽く欠伸をしだした為早目ではあるが俺達は先に休む事とした。
今回小さなテントが二つもあるのはお互いに相手が持って来なかった時の可能性を考えた結果だ。
その片側のテント内に寝袋を引き横になるが、小さめである為二人が仰向けで寝ると肩の部分が触れて気になる為横を向いて寝て少し空間を開けておく。
「スゥ…スゥ…」
そんな狭い場所で静かに寝息を立てて眠る琴音は、仰向けでいたはずが寝入ってから自然と自身も横向きになり、俺との距離を詰めて腕の中に納まった。
彼女の部屋と夜営で経験した事だが、琴音は眠ると人肌が恋しいのか相手に寄り添う、又は抱き着き安心感を得ている様だ。
「俺もそろそろ寝ないと…」
瞼を閉じて深呼吸を一つすると自身の物とは違う、女の子特有の不思議な香りがテント内に広がっている事に気づき、それが花の香りに似ているなと思った所で意識が遠のいて行く。
――。
――――。
――――――。
「お…ぃ、そろ…こう…ぞ」
どれぐらい眠ったのか不意に呼ぶ声が意識を覚醒へと促し、徐々に脳が動き出して外から聞こえる言葉の内容が入って来る。
「お~いぃ、そろそろ交代だぞ起きてくれ」
「ああ、今起きたよすぐに出る」
まだ眠い目を擦り身体を起こして無理やりに起きるが、腕の中で眠っていた琴音は俺の服を掴んで今だ夢の中だ。
「ほら琴音、起きてくれ」
「うんぅぅ~」
綺麗な顔を眉を寄せて歪ませ薄目で起きた彼女も身体を起こしフラフラと頭を振る。
その姿に苦笑いをしながら閉じていたテントの入り口を開き、外に出て背伸びをすると遅れて琴音もモソモソと現れた。
「悪い、時間かかったか」
「いや、そんなに待ってないし構わねぇよ」
「それでジャンティはどうしてそうなった?」
俺達を出迎えた野上の腕の中では、口を開き涎を盛大に垂らしながら眠りにつく彼女が抱えられている。
「頑張って起きてたんだけどな、無理だったみたいだ」
一人の女子として見せてはいけない姿を晒す彼女に自然と笑い漏らしてしまうが、こちらも人の事は言えないかと一瞬琴音に視線を向けた。
「もう大丈夫だありがとう、そっちもゆっくり寝てくれ」
「ああ、そうさせて貰うわ、こいつ抱えてんのもしんどいしな」
テントに入って行く野上を見送り、自分達が使っていた場所の中から寝袋を一つ取り出して地面に引き、その上で二人並んで座るがやはり琴音は眠そうにうつらうつらと船を漕ぐ。
「琴音いいよ、おいで」
床に座り投げていた足を胡坐に変え、膝を一つ叩いて此処にと合図する。
「ん~でもぅ…起きて…ないと…」
何とか身体を揺らしながら眠気に抵抗するが次第に瞼が開かれなくなり、限界を迎えたと察した事で彼女の肩を支えて膝に頭を乗っけて優しく撫でる。
「大丈夫だよ、何かあれば起こすから今は眠ってな」
時刻は既に深夜で規則正しい生活を心がけている彼女には見張りの役は難しいだろう。
尚も若干眉を寄せて抵抗を見せた彼女だが、安心させる為に撫でていた手を両手で掴み、自身の胸に抱き込むと穏やかな表情を作り出して再び夢の中へと旅立ってしまう。
「これは起きるまでもう離してはくれないだろうな」
空いているもう片方の手で寝袋と同時に持って来たタオルを琴音の上に掛けて何となく心地よさそうに眠る様子を見る。
最近では丁寧でありながらもなるべく言葉を崩して話してくれているが、一度気持ちが昂ると本来の話し方に戻り、相手を一言で黙らせる鋭さを放つ。
今のこの状態も他の人に見られよう物なら間違いなくその一言が出て来るだろう。
「それでも初めて会った時と比べると大分気を許してくれる様になったな」
すぐ傍で感じる息遣いが規則正しくなり、他にする事も無いからと出会った日の事を思い出す。
どれ程の時間をそうしていたのか、琴音の寝顔を見守りながら思い出していた過去の出来事に区切りを付けてスマホで時間を見るが全員が起きるにはまだ早い。
「しかしこれトイレに行きたくなったらどうしよう…」
起きる気配のない琴音だが、出来れば生理現象が現れる前には起きて欲しいと思いながら暇を持て余す為スマホのアプリを起動し、中にある本を読んで周囲に気を配りながら時間を過ごして行く。
再び時間が経過して時刻は朝の7時になり、結局起きなかった琴音を揺すって起こし、持って来ていた水筒で軽く身支度を済ませてテントで眠る二人を起こし朝食とした。
「まだ眠いなぁ~」
「お前は昨日結構寝てただろうが」
寝ぐせにより少し髪型が変わって見えるジャンティは欠伸をしながら言うが、その口周辺には昨晩の涎の痕跡は綺麗に消えている。
「私もまだ少し眠いですね、やはり慣れないからか本調子には届きません」
「いや琴音もかなり寝てたけどな」
そう言えば自分も同じ年だった頃はかなり寝ていた気がする、これが寝る子は育つと言う事なのだろうか。
「今日の探索はどうするよ、昼前には帰る予定だろ?」
確かにそう予定を組んではいるのだが、自身も含めて調子が上がらない状態であの敵と戦うのは避けたい、万が一と言う事もあるのだ。
「それなんだが帰還時間を少し早めよう、今日は軽く庭をどこまで続いているのかを見て帰るぐらいでいいと思うんだよ」
「無理する必要もないし、帰りの事を考えるその方が良さそうだな」
予定を決めた事で朝食後にテントや荷物を片付けて庭に向かうがここでも待ったが掛かる。
「司さんそちらは駄目です」
「兄ちゃんそっちじゃなく反対方向からにしとこうぜ」
昨日もあったこのやり取りだが間違いなくそういう事なんだろう、それならと言われた方に進み庭の様子を調べて行く。
「綺麗な花が多いですね、不思議と手入れの行き届いた風景に思えます」
ダンジョンの中で無ければゆっくりと時間をかけて見て行きたいと思わせる景色だが、先ほどから気になる物が俺の視界に映っている。
「あのウネウネしたのって何?」
花壇の一画の土の中から伸びるそれは縦横無尽に動き回り、此処に居るぞと主張している様に見える。
「花の根でしょうか、動き回る敵はいなくてもこういう形での敵は居るのですね、どうされます、倒しておきますか?」
「いや、駄目だ琴音ちゃん!君に触手系はまだ早い!」
倒した場合の魔石が気になった為どうしようかと迷っていると、馬鹿な発言が聞こえて来る。
「いいか、触手系とは凹凸のハッキリとした女性だからこそ需要のある物なんだ、幼児体系である二人にはまだ早い、需要が出るまで耐えるんだ」
真顔で力説するその男は人差し指を左右に振って伝えるが、それを聞いた女子達は周囲の温度を極限にまで冷えさせる空気を纏い、軽蔑さを込めた視線を向けている。
馬鹿の用語をするわけでは無いがこのままだとパーティーの空気が危ういと感じ慌てて取り繕う。
「いや、俺はありだと思うぞ!二人とも美少女だ、体系だけで決めるのは駄目だろう」
完璧なフォローを入れつつどうだと冷めた視線を向けていた彼女達を見ると、二人はお互いに抱き合いながらジリジリと俺との距離を離して行く。
どうしてそうなった?
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