第28 その言い方止めろ
部屋の中から吹き荒れる風が周囲の物を吹き飛ばし、扉さえも破壊する。
「偵察の意味!!」
瞬時に廊下に避難し、壁に張り付く事で風をやり過ごす野上にジャンティが鋭く言い放つがそれは後だ。
「今度は風かよ、今解ったけど何気に一番厄介かも知れねぇ!」
此処に至るまでに遭遇した敵は火と氷の魔法をそれぞれ使う個体だ、だがそのどちらも目で捉える事が可能、しかし風は無色透明、何となくで避けるしか方法が無い。
「司さん!」
「解ってる、ちょい待ち」
先ずは相手の確認からだと僅かに顔を覗かせるが、再び風が吹き荒れ顔に風圧が押しかかり、すぐさま引っ込める。
「くっそ、風が…相手は一体だけど手を考えないと」
少し顔を出した程度でもこれだ、突撃なんてかませば皆揃って吹き飛ばされかねない。
「野上…は駄目か」
「駄目とは何だ!!」
そう言う意味では無い、弓で攻撃する彼にはこの敵は相性が悪すぎると言う意味だ。
しかしこうなって来ると遠距離攻撃の敵に対し近接三人で挑まなければならない、となれば野上だけでは無く俺達に取っての最悪の相手だろう。
「俺達の中で一番の戦闘力は琴音だ」
彼女の出せる速度と力は現状ではジャンティより上だ、なら取れる選択肢は今考えうる限りでは二つ。
「物を投げて魔法を使わせてから突撃するか、琴音が全速力で突入してタゲを取り、あいつの向く方向を変えるかの二択だな」
「いえ、両方で行きましょう」
「この欲張りさんめ」
作戦は決まったと投げる物を探すが、破壊された扉の破片が散乱している為物はいくらでもある。
その中でも少し大きめの破片を手に取り投げるタイミングを計るがジャンティが手を挙げて注目を集めた。
「兄ちゃんあたしと琴音にやらせてくれ!」
「ん?どうするつもりだ?」
「まだあたしは本気を出してねぇ、失敗した分はここで取り戻すぜ!」
やる気を漲らせる彼女で有るが、本当に良いのかと野上に視線を向けると頷く姿が確認出来る。
「解った任せるよ、物は俺が投げるから二人は位置についてくれ」
部屋に面した壁に張り付いている俺達だが、そこから二人が対面に移動し突入しやすい位置取りに着く。
「行くぞ」
全員に一言入れて破片を部屋に続く入り口へと放り投げると、中なら突風が吐き出され廊下の壁に破片が叩きつけられ地面に落下した。
風が収まった頃合いで琴音が全力で突入し、成功と同時に室内の壁を蹴って跳躍する事で奥へと向かい敵の方向を変え、ジャンティが入り口を正面に捉えて槍を構え、下半身に力を溜める。
「やっちまえジャンティ!」
この場では役立たずな男達の片方から彼女に対し応援の声が投げられ、それが合図になったのか、彼女の居た場所で轟音と振動が発生し周囲にその余波を感じさせながら一筋の線を描き敵の頭部を貫いて破壊した。
失われた頭部の影響は大きく、敵は無くなった部位を両手で確認後そのまま体が崩れて塵となる。
「お~、凄いじゃん!一撃で終わったぞやるなジャンティ」
「あったりまえだろ!」
着地をした後槍を一度回転させて軽く振り、胸を張って輝く笑顔で自慢する。
「あれだよ、何だっけ…蝶の舞に飲み、蜂の様に出すだ!」
「深夜のサラリーマンかな?」
京都に行けば舞妓さん相手に飲んだくれた人達が辿る末路にそんなのがありそうだ。
「琴音も怪我は無い?」
「はい、私は走っていただけですので」
「なら良かった、それにしてもこれは酷いな…」
自分達のせいでは無いのだが、部屋にあった物はその全てが生み出された風に蹂躙され原型を留めていない。
「この様子では使えそうな物は何も残っていなさそうですね」
「そうな~、どうするよ?」
問いかけを投げて来る野上だが、今この場所でのその問はこの先をどうするかと言う意味だろうと考え、スマホを取り出し時間を確認する。
「今日は此処までにして館の庭先で夜営の準備をしよう」
予定ではまだ先に進むはずだったのだが先ほどの戦闘で思ったより時間が掛かった、疲れも有るだろうしと撤退を進言した。
「皆もそれでいいか?」
確認を取ると全員が了承した為戻る途中の部屋で表紙の豪華な物と、中に挿絵のある二冊を選び夜営をする地点へと帰る。
しかし戻ったからと言って何もしない訳にも行かず、それぞれのチームで持って来たかなり小さめのテントを出して設置し、食事の用意をしていく。
「そういえば敵が来ないとはいえ見張りは必要だよな」
彼らの経験ではだが俺達の夜営する場所には敵が来た事は無いとの話だが、だからと言って見張りを立てないなんて事も不安になる。
「ロビーでもそうだったが来ないと思っていた場所に来やがったからな、一様立てといた方がいいな、チームごとの交代でいいだろ?」
仮に年上で有る男達で組んでしまうと、自然と彼女達が二人で組む事になる、10歳の女の子二人に任せっきりになるのは流石にマズイ。
「ああ、それで構わないよ」
「なら前ゴリラと後ろゴリラ、どっちがいい?」
「おいその言い方止めろ」
普通に先か後かで決めればいいのに何故そんな言い方をするのか…。
「では野上さんは生粋のロリコンと後天性のロリコン、どちらがいいですか?」
いつの間にか話を傍で聞いていた琴音が乱入し、新たな選択肢を告げて来るがその顔は笑顔でありながら温かみを感じない、ゾッとする物だった。
「お前外で手を出して来るのなんてやめろよ、あたしにだって覚悟ってもんが必要なんだからな!」
同じく傍に来ていたジャンティが自身の体を両腕で抱き、野上から距離を取って言い放つ。
「ちょ!誤解だから!悪かったから本当に止めてくれ、俺達の関係が悪化する!」
「関係って言い方もいやらしいです」
俺の背に回り身体を隠して頭だけを覗かせた琴音が追い打ちを掛けるが、このままでは話が進まない。
「それで、ジャンティは寝起きが良い方か?」
途中で交代をする事になるのなら俺達は兎も角、彼女達に合わせる方法が一番いいだろう。
「あ~いや、こいつは一度寝たら中々起きねぇな」
「なら琴音はまだ寝起きが良い方だから俺達が先に寝て後で見張りをしよう」
人により寝起きは機嫌が悪くなる事もあるが琴音はそんな事など今まで一度もなく、前回一層で夜営をした際にも寝起きは良かったのだ。
「寝起きの良さを知る仲って…なんかやらしいぞ兄ちゃん」
「夜営してんだからそれぐらい知ってるわ!それを言うならお前達もだろうが!」
最近の小学生は本当に耳年増だと離れたままであるジャンティと赤い顔をしてモジモジしだす琴音を見ながら男達は夜営の準備を進めて行く。
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