第27話 シー…
冷たい氷の表面に廊下に架かっているいるランタンの光が写り込み、幻想的な輝きを放つ鋭利な槍は部屋へと転がり逃げて来た野上の追って床に突きさっさる。
「マジ怖い!こんなに怒るとは思わなかった!」
ヘイトを稼ぐという点に関しては満点を出す程の仕事ぶりだが、ここまで怒らせる必要は無かった、いや恐らく彼自身もここまでの怒りを買う事になるとは思っていなかったのだろう。
「三秒!」
部屋の奥へと移動しながら俺達三人に言い放つ言葉の意味は、敵が部屋に到達するまでの時間を示したものだろう、ならばと俺達は廊下に面する壁に張り付き左右から挟み撃ちで仕留める準備をする。
「あの怒りぐあい半端ない!失敗したら俺間違いなく死んじゃう!」
自業自得な気もするが、彼に死なれてしまうと勿論ジャンティにも影響が出るし、なにより見捨てる気は毛頭ない。
手を挙げて野上に今は黙っていろとジェスチャーをすると、廊下からは冬場の風が吹き荒れた時と同様の冷気が迫って来る。
(これ絶対俺の時より怒ってるじゃん)
人を外見で判断するなと昔親に言われた記憶が有るが、その言葉を体現する事態が今のこれだろう。
迫りくる冷気が吐く息を白く染め上げて、多少の誤差はあれど予想道理の秒数で敵は部屋の中へと侵入し、自身の周囲に雪の結晶を浮かべると徐々にその大きさが増していく。
「贈れ!」
同時に攻撃を仕掛けるにはタイミングが重要で、動くための切っ掛けや合図なども必要になる、誰かに言われた訳では無いが自然と出た声が伏兵と化した三人を突き動かす。
「桜花流・霞草」
右側に居た琴音は明霞を素早く何度も振り、即座に刀身がブレるて残像を残す速度に達するとその刃が敵の体を斬り刻み。
「馬鹿な奴でごめんな姉ちゃん!」
左に居たジャンティが横腹を槍で貫く。
「罠に引っかかっるお前も悪いがな!」
最後に二人からは少し遅れて邪魔にならない位置取りである前方に移動し、受ける攻撃により悲鳴を挙げそうになる腹部の口へと夜霞を突きたてた。
三方向から受けた攻撃により悲鳴を上げる事も出来ないまま身体を塵へと変化させ、周囲に作り出した結晶が光の粒へと姿を変えて消えて行く。
「体の作りは違えども、乙女心を持った貴方に贈る言葉は清き心です」
「まぁ言葉が通じないからそれで怒ってたのか解んねぇけどな」
あくまでもこれは自分達側の感傷でしかないのだ、言葉が通じない以上激怒していた理由は闇の中だろう。
「案外身振り手振りで伝わっちまったのかもな~」
言葉が通じない以上何かしらの挑発行為は必要かも知れないがそこまでやっていたとは思いもよらず、それを聞いたジャンティがため息を吐き野上に向かって指を指す。
「あたしらに感謝しろよ~、本当にあのままだったら八つ裂きにされてたぞ」
「確かに少々過剰だったかも知れませんね、ですがご無事で何よりです」
二人の言う通り今後は釣るにしてもやり方を変えてもらった方がいいだろう、今回が上手く行ったからといって次も無傷で済むとは限らない。
「女子の優しさに感謝しとけ、それとまだ近くに他の個体もいそうだったか?」
「いや、見た限りではだが姿は無かった」
今の所屋敷の廊下は見通しが良く敵がいたらすぐに解る程だ、部屋の中にいて出て来たとなれば別だが多少は安心出来る。
となれば次の行動をどうするかだが、二階層の探索を進めると同時に持ち帰れる物が有ればそれを優先させてもいいかもしれない。
「此処って屋敷なんだから何か書物的な物とか多分あるよな、何処かで見かけなかったか?」
「あ~確かあたっと思うけど、そんなのどうすんだ?」
「この階層の調査は全然出来てないってうちの咲田さんが言ってたんだよ、なら持って帰れば言語が違っても解析して情報が得られるかもしれないだろ?」
現代日本にダンジョンがある時点で普通におかしな話だが、その中に屋敷があるなんて異常すぎる、何の理由もなくこうなったとは何となくだが思えないのだ。
「あいよ、そう言う事なら了解だ、でもいいのか?この屋敷の本だぞ、俺達が思ってる以上に物事態がでかいから持ち帰るの大変だぞ」
「え、そんなに嵩張るのか…ん~…」
自分の中での本のイメージからか、その大きさにまで気が付いておらず思わず口を閉じて悩むが、そんな俺の服の袖を琴音が横から引っ張って来る。
「兎に角実物を見に行きませんか?見てみない事には持ち帰る数なども決める事が出来ませんし」
「あたしも見てから決めればいいと思うぜ、ここで考えててもしかたねぇだろ?」
二人の意見はもっともだと俺は考えるのをそこで止め、野上に先導される形で部屋を出て行き三つ程先にある部屋の内部にて目的の本を見つける事が出来た。
しかし巨大な棚に収納された本は開けば1メートルは有るのではないかと思う程の大きさで、完全に予想外の大きさに持ち帰ろうとする心が折れそうになる。
「これは流石に持って帰るのめんどくさいな…」
「そ、そうですね…どうされますか?」
例え持ち帰れたとしても数は精々カバンに入りそうな二冊程度だろう、なら本の内容を精査したい所だが書かれている文字が全く解らない。
そもそも先ずは解読をする処から始めなくてはならないはずだ、それなら今はどれを選んでも大差ないはずだ。
「この先にもまだ部屋はあるよな?」
「ああ、けど本があるかは解んねぇぞ?」
その時はその時で今日の夜営場所である館の前に戻る道中に拾って戻ればいい。
「無ければ帰りに適当に拾って帰る、今は先に進んで探索を優先しよう、この廊下は何処に繋がっているんだ?」
現在俺達がいる部屋から廊下に出て先を見据えるとまだかなり距離は有るが突き当りが見えていて、そこから更に左に曲がる様になっている。
「あ~それな、解んねぇ…って言うのも俺達二人じゃ真面に探索が出来ないって言っただろ?だから行動範囲はこの廊下までと決めて何時でも逃げれる様にしてたからな」
「一体倒すだけでも大変だったんだぜ~」
確かにここの敵は厄介すぎる、魔法を使い、空中に浮かぶ事で攻撃も当てずらい、それらを考えると今まで二人でやれていた事が本当に凄い。
「なら一旦突き当りまで行こう、道中の部屋も確認するから気をつけてな」
個人的な判断にはなるが今日の目標はその位置までの把握で十分だろう、初見の場所に未知の敵、その両方を経験した事で気づかない内に疲弊している可能性も考えるとそこら辺で止めるべきだ。
「あいよ、なら次だ」
部屋の中から廊下に顔を出し、左右を見た野上は俺達に指で来いと合図を出す。
誰かに言われた訳でもなく偵察の任を負う彼だが、その動きに不自然な感じは全く無く恐らく二人の時は彼がやっていた事なのだろう、ジャンティでは少々不安が残るだろう。
吊るされたランタンがユラユラと揺れて、静寂が支配する廊下を四人が静かに移動すると次なる部屋の扉へとたどり着く。
「シー…」
人差し指を口に当てて野上はゆっくりとその扉に耳を当てて中の様子を窺い、俺達に一つ頷くとノブを捻り徐々に開いた。
「大丈夫だ、誰もいね―」
「キヤァァァ!」
「めっちゃおるやんけ!!」
話している最中に叫び声が聞こえて慌てて下がる野上に思わずツッコみ、再び俺達四人は戦闘に入る。
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