第25話 そちらは駄目です。
二階層の探索場所である館の前で俺達は休息を取り、出発の時間まではゆっくりとした時間をそれぞれが堪能するがそんな中、一人自分の拳を何度も握っては開くを繰り返し自身の調子を確かめていた。
「どうかしましたか司さん」
休憩中も野上からは距離を取り、俺の横を離れない琴音は俺の視線の先にある手を見ながら疑問の表情を浮かべて問いかけた。
「ん~何だろう、今までよりなんか力が入りやすくなった感じがして感覚がおかしいんだよな」
琴音と共に居る事でその辺の感覚がおかしくなっているが、それでも本来の自身の力がどれぐらい有ったなどは流石に間違えはしない。
「そうなんですか?なら一度この石をそちらにある木に向かって投げて頂けますか?」
「え、それはいいけどなんで石?」
力を試す方法なら色んなやり方が有ると考えたが、脳裏にその一つである琴音との握手による力比べで自身の手が握り潰される予感がして言うのを止める。
「失礼な事を言われた気がしましたが…今はいいでしょう、どうぞ投げて下さい」
手渡しで転がっていた石を渡し、館の庭に植えられている木を指す彼女の言う通りに、今出せる全力で石を投擲すると投げた石は木にぶつかり本来であれば跳ね返される所を木の幹に食い込んでそのまま停止した。
「うおぉ~兄ちゃんやるじゃん!あたしも負けてらんねぇ!」
「ちょ、おいジャンティ!お前ノーコンなんだから投げる時気を付けろよ!」
何故かテンションの上がった彼女を窘める野上だが、そんな事は気にしないと近場に見える木に石を投げる。
「まぁあちらの事は置いて置きましょう、司さんが感じていた違和感は間違いないようですね、普通は成人男性が持つ筋力でもここまでの事にはなりませんし」
「やっぱり筋肉には詳しいのな」
「お黙り下さい!」
別に筋肉が好きでも良いと思うのだがどうやら琴音はそこを弄られるのは恥ずかしいようだ。
「一度咲田さんに話してみませんか?何か良くない事の前触れだと言い切れませんし」
「そうだな、そのうち力加減には慣れるだろうけどなんか気持ち悪いしな」
ランキングに登録されている人数だけでも12万人はいる、それほどの数が要れば自分と同じ人間が他にもいるかもしれない。
「所であれはいつまでやるつもりなんでしょう?」
「それは俺にも解らんよ?」
話している間も石を投げ続けているジャンティだが、一通り投げ終わったのか急に地団太を踏み出す。
「ぬがぁぁ~!何で当たらねぇんだよ!」
「これだけ投げて当たらないとなるとある意味才能だな、諦めろ」
「えっと、いくつ投げられたのですか?」
「20から先は数えてない」
それだけ投げて一つも当たらないなら確かに才能かも知れないな。
「それよりそろそろ行こうぜ、準備は大丈夫か?」
ここでの休息も遊び始めたなら十分だろう。
「あの、司さん少しお花を…」
「あ~解った、ジャンティ琴音とちょっと花摘みに行ってくれ」
ダンジョンでの花摘みは言わずもながらあれである、今までは琴音が恥ずかしがる為その辺に落ちている物で周りを囲いその中でしていたが今回はジャンティがいる、彼女と一緒なら琴音も気が楽だろう。
「花摘み~?…お~あれか、解ったぜ任せろ!ついでにあたしも出してくるわ!」
折角琴音が隠語を使って言ったのに出すなんて言うと全てが台無しだ。
「ほっほら行きましょうジャンティさん」
明らかに顔が赤くなった琴音が背中を押して行き、その行動に戸惑うジャンティの声がそれなりに離れるまで聞こえていた。
「俺達も帰ってきたら交代で済ませとくか」
「そうだな、ダンジョンの中とはいえ館の中でそこらにするのも気が引けるしな」
暫く待つと彼女達の話声が聞こえ、今度は自分達が行ってくるからと荷物を頼んで移動をするが、琴音により待ったが掛かる。
「司さんお待ち下さい、そちらは駄目です」
「え?なんで…?」
「言わせんなよ兄ちゃん、ダンジョンの中とはいえ風が吹いたらどうすんだよ」
「あ~解ったよ、こっちに行くわ」
初めに俺達が向かおうとしたのは彼女達が行った場所から少し横にずれた所だ、そこにジャンティの説明で風が出て来た事で理解をした男二人は正反対の方角へと向かい済ませて戻る。
「ったくよ~、今度からは察してくれよな」
「悪かったよ」
確かにそこまでの事は考えていなかったが年頃の女の子が一緒にいる以上今後はそういう面でも気配りが必要か。
一通りの謝罪を終えて男が後方で荷物を持ち、前衛は女子が担うという本来なら逆だろと言いたい布陣だが、力関係を考えたらこの状態が一番いいとなり、今回初となる二階層の探索に取り掛かる。
館への道は前庭を通って行く事になるがチーム【jaime lorie】によりそこには敵は居らず、今の所ではあるが内部にしか居ないと情報があった為そのまま進み入り口の前にまで進んで行く。
「これは…大きい扉ですね、ドアノブが私の頭と同じ位置にありますよ」
「まぁ~うん、琴音はもう少し色んな所が成長すれば見え方も変わって来るさ」
背丈の問題は上半身や足の長さで変わって来るし、今の世の中シークレットシューズなんて物も普通に出回っている、成長すれば目線の高さの違いから多少はマシになるだろうとそう思って言った言葉なのだが、何故か他の人達は違う意味で捉えた様で琴音の一部分を凝視し、その視線に釣られて同じく視線の先である胸を見ると背筋から冷や汗が噴出してくる。
「司さん、帰ってから…では遅いですね、今夜の夜営の際にお話しがありますので」
「そ、そうか今夜な今夜!」
真顔で俺に向ける視線からは決して逃がさないという意気込みが感じ取れる、その時の言い訳を考えておく必要がありそうだ。
「もういいか?開けるぞ」
野上が俺達の注意を引き扉を開けると、まず目に映ったのは広々としらロビーで、そこから二階に続く左右に別れた階段だ。
「うわぁ~ゲームで見た事ある感じのやつだな」
「あたしも初めて来た時は同じ事思ったぜ」
「お二人はどこまで探索が進んでいらっしゃいますか?」
「入って右手に廊下が有る、その少し先までだ」
野上に倣って右を見ると確かに廊下が有り館の奥へ続いているようだ。
「これは先に探索している俺達からの忠告だ、敵は宙に浮く痴女っぽい服を着た悪魔で厄介な事に魔法を使って来る、確認出来ているのは火、水、風、氷だ、どの個体がその系統の魔法を使うかは戦ってみるまでは解らない、気を付けてくれよな」
ありがたい前情報を頂いた俺と琴音は無言で頷き合い一層気合を入れ直す。
どうやらこの二層は一層とは違いサクッとは終わらないらしい。
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