第24話 フォーマンセル


 その後の日々は変わり映えのしない日常で学校が終わった後は勉強や友達との予定が入る為、平日はダンジョン関係は無しにして体がなまらない程度に運動をする事にしていた。

 

 そして次の土曜日になり早朝からダンジョンの入り口にて待ち合わせをし、顔合わせの後に内部に入り午前中の間に二層に行ける様に予定を組んでいる。


 そして今は全員が揃った事で主に琴音に対する自己紹介がお互い向かい合って始まっていた。


 「おっす!あたしは【清水 ジャンティ】だ宜しくな~!ジャンティって呼んでくれ」


 「俺は【野上 秀介】、堅苦しいのは苦手だから下の名前で呼んでくれていいぞ」


 開口一番手を頭上に上げて挨拶したジャンティに対し琴音はいつもと変わらず丁寧に済ませ、野上に対しては下の名前で構わないと了承を得ているが頑なに苗字で呼ぶと譲らなかった。


 きっと彼女の中できっぱりとした線引きがあってその為だろう。


 「司さんとは通り名の件で知り合ったとお聞きしましたが、お二人の通り名をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 俺達の通り名は既に向こうには知られている事も伝えていた為か、琴音は気にした様子もなく問いかけ、俺の向かいに居る野上が一瞬にして表情を曇らせる。


 「お~そうだ言ってなかったな!あたしたちの名前は【jaime lorie】ってんだ!」


 片手を琴音に向けて親指を立てながら琴音に名前を告げるが、琴音は今まで見せていた微笑を引きつらせて再度問いかける。


 「ごめんなさい、もう一度お聞きしてもいいですか?少し聞き逃してしまいまして」


 「ん~?だから【jaime lorie】だってば、いい響きだろ!」


 今度は聞き逃さなかった琴音だが再び告げられた名を聞いた途端に隣にいる俺の腕を抱き抱えて距離を取ろうとし、怯えた表情を見せたままその視線が野上を向いていた。


 「え、どうしたんだ琴音?」


 知り合ってから今までで彼女がここまでの反応を示したのは初めて見たダンジョンのゾンビ以外には無く、急にどうしたんだと戸惑ってしまう。


 「そ、その、私は多少フランス語を単語程度ですけど覚えていまして…お名前の意味が〈私はロリが大好きです〉と言う意味だったので……」


 その言葉を聞いた俺は優しく抱え込まれていた腕を解き、琴音の両脇に手を突っ込んで抱き抱え、即座に無言で野上と琴音の距離を引き離す。


 「いや待ってくれ!誤解なんだよぉ!名前はジャンティが勝手に付けて俺の意思は微塵も含まれてないんだ、頼むから信じてくれ俺はそんなんじゃない!」


 必死に懇願する野上では有るが何も無い所に煙は立たないとも言う、念のためにジャンティに視線を向けて確認をする。


 「なんだよ兄ちゃんもセンス有るってって言ってたじゃんか!」


 「いや、俺意味知らなかったし…なんでそんな名前にしたんだ?」


 「理由なんてねぇよ、ロリっ子のあたしと今後は一緒だって事と、響きがいい感じのにしただけだぞ」


 流石にそれなら大丈夫だろうと抱えていた琴音を地面に降ろし、自然と野上に同情の視線を向けてしまう。


 「言っとくけど兄ちゃん達の方がよっぽど酷いからな!」


 少し機嫌の悪くなったジャンティが抗議するがこれ以上ここで騒いでいるか訳にもいかないと適当に切り上げて内部に入ったのだが、その際も琴音は俺の側で服の袖を掴み野上から距離を取り続けていた。


 内部での予定はそれなりに急ぐ事になる、その為戦闘は琴音とジャンティが大神殿までの道のりで出くわす敵を倒して行き、最奥での戦いは全員で終わらせて二層に上がる予定になっている。


 「そういやよ~、ここの門なんかいつの間にか壊れてんだよ、開ける必要無くなったけどこんなの壊すとかよっぽど鬱憤が溜まってたんだな~」


 一つ目の門に着いた途端ジャンティが琴音のタブーに触れて来るが犯人が誰かを知らない以上は仕方が無い、それに琴音自身その言葉に笑みを浮かべて素知らぬ顔で対応しているなら大丈夫だろう。


 「そこを破壊したゴリラの事は気にはなるが先に進もうぜ」


 と思ったのだが野上の言い放った一言により琴音は眉を若干痙攣させて明らかにゴリラに反応をしていた。


 「そうだな、壊した犯人は解らないし俺達も行こう」


 この件は下手に拘ると飛び火する可能性がある、それならこのまま何も言わずに先に行った方が俺自身の身が安全だ。


 荷物持ちである俺達が進みだした事で彼女達も話を辞め、前を歩く俺達を横から追い越して前に出るが、その際琴音からジト目を向けられた事で軽く冷や汗が額に浮かぶ。


 (これは後で機嫌を取った方が良さそうだな)


 そうしている間にも出会ったゴブリンは前衛の二人が倒し、倒壊を免れていた民家を超えて十字路と神殿を通り過ぎた時にその中に先日の槍騎士がいるかと遠目で窺うが、見えたのは散乱する鎧と俺達が置き去りにした物があるだけだった。


 「復活はしていないか、魔石が落ちなかったから他の奴とは違うとは思ったが」


 現状なにか解るとしたら預けてある槍か俺達が手と足に付けている防具、それと今もあの場にある残りの鎧だろう、帰りに余裕が有れば持って帰るのもいいかもしれない。


 「兄ちゃんどうしたよ?着いたぜ!」


 「ん?ああ、悪い」


 何となく考え込んでいたのか、気が付くと二つ目の門、大神殿の前にまでたどり着いていた、此処に来るまでの時間は~とスマホで時間を確認すると昼前で、予定通りに進んでいる。


 「それじゃ倒しに行くか、連携は…いきなりは無理だし個別でやるか、野上は杖を持ってる奴を初撃で仕留めてくれたら適当にカバーしてくれ」


 「あいよ!」


 大雑把に決めた役割ではあるが今はこれで十分だろうと判断し、鍵を使い大神殿の内部に入ると復活した守護者達が一斉に武器を構えた。


 「琴音行くぞ」


 乱戦になる前に倒すと誰よりも真っ先に走り出した俺を、後から動いた琴音が抜かして一体目を斬って一刀で倒し、一番厄介な魔法を使う個体を野上が矢で仕留め、その間にもジャンティが自信と同じく槍を持つ個体と戦闘をはじめるがそちらも一突きで倒しきる。


 「誰よりも真っ先に行った俺が最後とかカッコ悪!」


結局一番最後になった俺が他の個体と接敵し、前回とは違い振り下ろされた剣を軽く避けて夜霞の一振りで倒す。


 (やっぱりだ)


 何故か自分の体に違和感を感じる、一番初めにそう思ったのは確かゴブリンを倒した時だ、そして今回も何かがおかしいと感じてしまう。


 しかしその答えに辿り着く前にここでの戦闘は他の三人、主に女子二人によって掃討されていた。


 「やっぱ人数が増えると楽だな~」


 「そうですね、ジャンティさんがお強いので助かりました」


 「んでどうするよ、ここで飯にするのか?」


 「いや、上に行ってからにしよう野上」


 現状この場でも安全は確保出来たが、上に上がる為の階段を登らなければならない、休息後よりは前に上がってしまった方がいいだろう。


 「そうだ兄ちゃん!ここに来るまでに通った神殿あっただろ?あそこに槍を持ったつえぇ奴がいるから、中見てたみたいだけど行くのは辞めといた方が良いぜ、あたしらもあそこは避けて進んだからな!でも持ってた槍はすげかったぞ、あの槍はそのうちあたしがもやってやるぜ!」


 「あ、ああそうか、了解だありがとよ」


 突然可愛らしく彫の深い顔を真剣な表情にして忠告をしだす彼女だが、その情報は出来ればもっと早く欲しかった。


 そしてその隣では既に倒していて高そうな槍まで持ち帰った事を言っていいのと微妙な顔をした琴音の視線が俺に問いかけて来るが、俺は軽く首を横に振るだけで先に階段を登り出す。


 (別の槍を見つけたら教えてあげよう)

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