2章 二階層
第23話 5階の住人
登校における道のりは引っ越した事により全く違う道を通る事になるが、以前と比べれば距離的には高校に近づいた為楽にはなっただろう。
そんな何時もとは違う道を通り到着した高校の教室に移動すると休んでいたからか、数人の視線を感じ、それを肌で感じながらも自分の席に座ると仲間達が取り囲む。
「ペペっち結構休んでたけどどうしたん?」
「休む前の帰りからなんか様子がおかしくなかったか?」
「今日の帰りはどうするよ?なんかあったんなら気分転換にでも行くか?」
それぞれ質問の内容は異なるがどれも俺を心配しての内容でそれに嬉しさと申し訳なさを感じ、少し用事が出来て休んでいただけで何も問題は無い事と放課後はマクドにでも行こうと話終えた時にはもうホームルームの時間が始まり、午前中の授業が開始された。
一つの授業が終わると休みから取れて無かったノートを仲間に狩りて映し、それが三限目にもなると空腹から咲田さんが持たせてくれた弁当を早弁で食い、四限目が終わり仲間達と学校にある食堂に行こうと話していた所で廊下から誰かが自分を呼ぶ声が聞こえて来る。
「ん?誰か今呼んだよな?」
「あ~ごめん、俺が呼んだんだ」
そう自己申告をした人物は廊下から俺に向かって手を挙げている。
「え、あれ誰だ…?」
「確か一組に来た転校生だったはずだけど知り合いか?」
「いや、名前も知らない時点で知り合いではないだろ」
そこらで顔を見ただけで知り合いになるなら周りが全員知り合いという扱いになるではないか。
「わりぃ、ちょっと行ってくるわ」
確か休み前にもこんな事があったなと思いながら仲間に断りを入れてその人物の元へ行く。
「えっと?悪いんだけどどっかで知り合ったっけ?覚えてないんだよ」
「いやいや、会ってもないよ、俺は【野上 秀介】、ジャンティの関係者だって言えば解ってもらえるか?」
ここが学校である為言い方を変えては有るが、つまりは自分と同じ立場の人間だとそう言う事だろう、名前を知っていた件もジャンティから聞いたのなら理解出来る。
「なるほどな良く解ったよ、それで?俺に何か用だったのか?」
「あの子が世話になったって言ってたからお礼をと思ってな、それと同じ年なら話も合いそうだしこれから昼でも食いに行かないか?」
俺はその提案に了承し二人で食堂に行くと何を食おうかと悩んだ末に、頻繁に食べている大盛ラーメンを注文して余り周りに聞かれない様にと隣り合って座る。
「あの子が家から飛び出した時見つけて帰る様に言ってくれたんだろ、ありがとうな」
熱々のラーメンを頬張っていると隣からそう言われるが、あれは偶々ジャンティがあそこに居たのと、同じく俺が逃げた結果だから別に礼を言われる程の事でもないだろう。
「それはいいさ、お互い気にしない様にしよう、用はそれだけか?」
「いや他にも話がある、率直に聞くけど【言葉を話す綺麗なゴリラ】は今何階層だ?」
啜っていたラーメンを思わず吹き出しそうになるのを何とか堪えるが、若干変な声が漏れたのはどうしようもない。
「待て待て、その呼び方は辞めろ!それに俺達の通り名は【言葉を紡ぐゴリラ】だその間違え方だけはうちの相棒の前で絶対すんなよ」
琴音自身今は他人から通り名で呼ばれない為記憶の彼方に追いやっているはずだ、それが俺の口から洩れたと知ったらまたとんでも無い事になりかねない。
「階層は昨日二階層に辿り着いた所だよ、って言っても本当に外から見て帰ったから中がどうなっているとかの情報はまだもってないぞ?」
「あ~いや、情報が欲しいのは欲しいがそうじゃないんだ、俺達も今二階層を探索中なんだが何分あのデカさだから正直探索が全く進んでいないんだ、そこで二組で協力し合うのはどうかと思ってな」
咲田さんに聞けば多少なりとも情報は貰えるだろうが、探索をする上では確かにあのサイズの大きさから手間取るのは予想が出来る、家に帰って相談後にはなるが受けるのはいいのではないか。
「仮に組むとした時そっちの武器は?こっちは二人とも刀なんだが」
「俺達は槍と弓だ、ついでに言うと取り分は基本倒した人の物で強い個体は換金後に折半で考えている」
「ふむ」
前衛四人になると少々邪魔かなと思ったりもするが俺達に欠けている後衛が居るのはバランス的にも助かる所だろう。
「解った、返事は帰って相談後になるがどちらにせよジャンティに連絡するよ」
一旦返事を保留としながら残った昼休憩の時間を野上と話しながら過ごして午後の授業を受けた後、結局定番になりつつあった帰りにマクドに寄り適当に仲間と過ごして帰宅する。
「琴音は今日の学校どうだった?」
時刻は既に夜となり夕食後の団欒で最近定位置になりつつある俺の隣に座る琴音だが、今日は転校初日の登校日だ、彼女の事だ何も無いとは思うがやはり心配にはなって来る。
「恙無く終わりましたよ、話しかけて下さる人もいて助かったぐらいです」
「良かったわね琴音ちゃん、転校してきた子に意地悪する子もいるからちょっと心配だったんだけど、安心したわ」
俺自身小学生の頃に転校した事があり、その時にやたらと突っ掛かって来る奴がいてめんどくさい目にあった記憶がある。
女子に対しては一目惚れからの接点を持ちたいを理由にわざとやる奴も居るが、男の転校生にいきなりそう言った事をする奴は何を考えているんだか解らない。
「何も無くてなによりだ、話は変わるんだけど、今日学校で―」
この場にいる二人に今日の出来事を説明し、二人がどう思うかを聞いてみる。
「いいんじゃないかしら、二層は広いから協力して進む方が効率はいいと思うわよ」
「私も賛成です、味方が増えた方が戦闘も安定致しますし」
それならと連絡を入れようかと考えたが、その前に咲田さんに聞いておいた方がいいだろう。
「咲田さん、二層の情報を解っている範囲で教えて欲しいんですが」
「そうよね~…」
返事をした彼女だがその表情は何処か優れない、考え込んでいるのか悩んでいるのか解らないが、今までの彼女の反応からすれば珍しい物だろう。
「実はね、ダンジョンが発見されてから三年が経っているけど…あの内部は二層で攻略が止まってしまっているの」
「どうしてですか?それだけの時間があればもう少し先に進んでいそうなんですが」
俺達ですら一層を数日でクリアー出来たのだ、それを考えればもっと先にまで階層が在れば進んでいるはずだ。
「答えは簡単よ、ついこの前まで普通の学生が内部に入って命がけで探索しろと言われても、はいそうですかとは受け入れられないからね、誰だって死ぬのは怖いわ、その恐怖を自覚せずか押し殺して乗り越えるのは並大抵の事では無いの、そう言う理由から今はまだ二層の一部しか探索が進んでいない状況ね」
「では何も情報が無いって事ですか?」
「いえ、そうではないわね、一様敵が身長三メートル程の大きさが在るって事は解っているわよ」
つまりそれ以外は何も解っていないと言う事だろう、次の探索はかなり大変な物になりそうだ。
「なるほど、そうとなれば余計に組んでやる方が良さそうですね」
俺はこれからジャンティに連絡を入れて予定を組むと伝えて琴音と咲田さんは冷えた紅茶の入れ直しその夜は深けて行く。
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