第22話 帰還後の報告
第二層から戻った時には結局夜になっていて夜8時になっていた。
ダンジョンを守る関係者、聞いた限りでは警備隊と呼ばれているらしいが、彼らには今回渡す物は無いと伝えるが俺が背負う槍に視線が釘付けだった、やはりこの槍は何か特別な物なのかも知れないが咲田さんに話を聞いてからと考えた結果である。
そんな咲田さんだが俺達が出て来てから電話を掛けるとすぐに出て迎えに来てくれるとの事でそれを今俺達は待っている所だ。
「あ、そう言えば…」
スマホを取り出しもう少し時間がかかるかなと考えていた所で【ジャンティ】の事を思い出す。
「そいや~あいつ遊びに来るって言ってたな、もしかしたら電話くれてたかも知れないな」
日にちまでは決めていなかったが連絡出来る状態では無かった事ぐらいは伝えた方がいいだろう、そう考えスマホを取り出し最近登録したばかりであるジャンティに掛ける。
そして何度かのコールの後に繋がる音と共に声が聞こえて来る。
『あいよ~兄ちゃんか?」
「ああ俺だよ、ジャンティ遊びに来るって言ってただろ?もしかして昨日か今日連絡くれてたんじゃねぇかと思ってな」
『お~そうだぞ!昨日何回か電話したけど繋がらなかった!兄ちゃん何してたんだよ~』
やっぱり遊びに来るつもりだった様だ、中に入る前に連絡を入れておけばよかったか。
「悪いジャンティ、ダンジョンに入ってたんだよ、中で一泊したから連絡つかなかった、ごめんな」
『ほえ~そうなのか、ならしゃ~ねぇな!また電話するけど次は行く前に教えてくれよな!』
「ああ、解ったよじゃあな」
悪い事したなと思いながらスマホの通話を切るが隣の琴音から何とも言えない視線を感じる。
「どうした琴音?」
「…ジャンティって誰ですか?」
あの子と知り合ったのはあのゴリラ事件の後に俺が逃げ出した時だ、翌々考えればまだ琴音はジャンティの事を知らないのだ。
「あ~ジャンティってのはだな―」
「若い声の女でしたよね、なんですか?他の女に手を出したのですか?私にあんな事をしておいてどう言うことですか?答えて下さい」
ちゃんと説明をしようとした俺に詰め寄りながら早口に質問を投げかける彼女の目には光がなく、暗い底の見えない暗黒が俺の存在を飲み込もうとしているかの様だ。
流石に何か嫌な物を感じ取り即座に次々と出て来る質問に答えている間に咲田さんは来てくれた。
「あ~取り込み中?そこら辺をもう一周してきましょうか?」
今の琴音に関わり合いたく無いと思ったのかそんな事開口一番に言ってのけた彼女だがここで行かれるのは俺が困る。
「はいそうして下さると大変助かります」
「いや駄目だよ!行かないでぇ!」
即答で肯定をする琴音に焦りながら懇願し、何とか車に乗れた俺は身体だけではなく此処にきて気持ちにまで疲れを感じながら自宅に戻った。
「さて、それじゃ~二人ともお帰りなさい!今回の報告を聞かせてもらえるかしら?」
「そうですね~」
とは言えどこから話した物かと考えるが細かい所は省いて気になった所だけ伝える感じでいいだろう。
そう思い序盤や鍵の事などは省いて、槍騎士の所や第二階層にまでたどり着いて来た事を簡潔に説明する。
「広場の手前にある神殿で槍を持った騎士がいた…か」
「はい、これがその槍です」
手渡した槍には手に入れた時にも思ったが見事な細工と装飾が施されていて、とても高価で名の有る槍を思わせた。
「これは…少しの間預からせてもらってもいいかしら?調べてみないと何ともいえないわ」
「解りました、ですがそのまま槍が返って来ないって事は…」
内部で手に入れた物で研究対象だからと言われて取り上げられてしまう可能性も考えられるだろう、出来ればそれは避けたい。
「大丈夫よ、見つけた物はその人に権利があるからちゃんと返ってくるし、期限もちゃんと決めて返って来なければ取に行くと約束するわ」
「琴音もそれでいいか?」
「はい、構いませんよ」
彼女もいいならと俺はそのまま槍を任せて次は魔石の話に取り掛かるが此処に来て不思議に思った事があったのを思い出す。
「咲田さん、槍騎士なんですが、魔石を落とさなかったんです」
戦ったあの場にあったのは槍と持ち帰る事を諦めた防具だけで、魔石がその場には見つからなかったのだ。
「そうなのね…それも含めて調べて貰うわ」
一連の話が終わると俺達は今回の探索で得た魔石のほぼすべてを咲田さんに渡し、一部は琴音の余裕を持たせる為に持っておく事を決めてそれぞれ疲れを癒す。
俺が行ったことと言えば一日ぶりにシャワーを浴びて部屋でゴロゴロするだけだ、PCでお気に入りの音楽を流しながら漫画を読むこれだけでも十分癒される。
まったりとした時間に少し眠気を感じた頃に部屋のドアが控え目にノックされた事に気づき、開けるとそこには寝間着であろうパジャマに身を包んだ琴音が立っていた。
「どうした?何かあった?」
時間もそうだが見た感じ湯上りで仄かに石鹸の匂いが香る肌を上気させた状態で俺の部屋を訪ねて来るなんて事は今までなかったのだ。
「いえ、何かあった訳では無いのですが…お邪魔でしたか?」
「そんな事は無いよ、まぁ入って適当に座って」
と部屋に招き入れたがこれは良いのだろうかと今更ながらに気が付くがもう遅い、既に琴音は中に入り様子を見渡しながらソファーに座ってしまった、まぁ自分が何もしなければ問題は無いだろう。
「これは誰の曲なんですか?」
「EGOISTだよ、本ぐらいしか無いけど適当に好きにしてくれていいよ」
余り気を使うと琴音もいずらいだろうと俺はあえて好きにさせて自分は本を読み、多少躊躇しながらも漫画の本を並べてある棚から何冊か持ってきた彼女はそのまま隣で読み、部屋の中には音楽と紙の捲れる音だけが聞こえて来る。
昨日今日とで疲れた体にはいい休息だと漫画を読むが次第に瞼が重くなり、何となく目を閉じた所で俺の意識は途切れてしまった。
翌朝学校がある為かけていたアラームの音で目を覚ますが体がやけに重く、まるで何かに動きを阻害されている感覚から目を開けると、ソファーの上で横になっている俺を琴音が抱き枕の様にして眠っていた事で一気に覚醒する。
「これはヤバイ…」
何が?と聞かれれば何もないのだが、少女に抱き枕にされて眠っていた事実を他人に知られるのは社会的にマズイと感じたのだ。
「琴音、琴音!起きてくれ、今日から学校だろ?遅刻するぞ」
動かせない体で何度も彼女に覚醒を促すとしばらくしてようやくうっすらと目が開いて行く。
「あれ…ここは……はぁあ!?わ、わわわ私なんてはしたない!!申し訳ございません!失礼いたしましたぁぁぁぁ!」
絶叫にも近い彼女のそれは恐らく家中に聞こえた事だろう、これから会う事になる咲田さんを思えば少々気が重い、必ずからかって来るのが解るから…。
「まぁ琴音も疲れていたんだろう、今日は仕方ないな、俺も用意しないと…」
毎朝の行動であるシャワーを浴びなければ普段は中々目が覚めないが、今日は起きると同時に即覚めた為一瞬浴びるかどうかを迷うが何となく行動を変えてしまうのが気持ち悪いからといつも道理に朝の身支度を済ませてリビングに行く。
「おはようございます咲田さん」
「おはよう~琴音ちゃんとの仲は順調そうで安心したわ、でも同衾はしても流石に手は出しちゃ駄目よ?」
挨拶からの先制攻撃を受けた俺は無意識に顔を手で隠して保護者である彼女に事情の説明をし、からかわれる事になりそうだ。
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