第20話 夜営


 「さて、そろそろ行こうか」


 ある程度の休息を終えて先に進もうと提案するが、ここで一つの問題が発生する。


 「それは構いませんが、これをどうされますか?」


 もっか問題となっているその原因が休息を取る前の戦闘行為で得たドロップ品と言ってもいいか困る物だ。


 「槍と甲冑、これを残して逝ったのはいいが俺達にどうしろと?」


 槍に関しては使い道もあるし、多少嵩張るが持ち運べない物では無い、しかし甲冑は別だ。


 「持って帰るのは…ちょっと重すぎますね」


 仕方なく置いていくかと考えたが一つ試したい事が出て来た為、一部の部位を手に取り自身の体へ当て嵌める。


 「琴音、これ脛と腕の一部分だけ貰って、他のは…申し訳ないけど綺麗に纏めて置いて行こう」


 今現在俺達は動きの妨げになるからと防具らしい物は何も着けていなかったが、これを期に足と腕だけでも身に着けるのもいいだろうと考える。


 「では私は脛の部分を頂きたいので、司さんは腕の方でもよろしいですか?」


 「ああ、それでいいよ」


 着けるとすれば戦闘経験の浅い俺が武器を持つ腕を守る方を貰った方がいい。


 「槍はどうします?」


 「それは俺が持つよ、荷物を持つ関係上俺が持っている方が琴音の邪魔にならないからな」


 カバンの中からタオルを取り出し槍を縛り、胸の前で結び目を作る、槍を背負うスタイルを作り出す。


 「でそれにしてもその槍、凄く綺麗な装飾をしていますね、ちゃんと持ち帰って咲田さんに見てもらいましょうね!」


 なにやらフラグとしか思えない琴音の発言に肯定をして俺達はこの場に残して行く鎧を振り返らずに先に進む。


 今いる神殿から続く道は直進のみで、しばらく進むと十字路に差し当たる。


 「正面の道は一つ目の門を右に行った時に出て来る所でしょうか、左は…少し先に二つ目の門があって、その奥に大神殿がある、対して右は…」


 二人揃って向けた視線の先には中央に破壊された噴水のある広場が見えた。


 「元の状態でしたら綺麗な憩いの場になったでしょうに、今のこの状態は酷いですね、ゴブリンの溜まり場になっています」


 広々とした場所の至る所に倒壊した建物の残骸が地面に転がり、ゴミと見間違う程汚れたゴブリンがそこらで躊躇もなく寝ていたり遊んでいたりする。


 「確かにな、それにこの臭い…あの噴水か」


 恐らくでしかないがゴブリンどもの肥溜め場に使われてしまったのだろう、近付いて見るなんて事は断固拒否したい。


 「どうしても行くと司さんが言うなら…ですが、私としては近寄りたくもありません」


 「いや、俺もあそこは嫌だわ左に行こう、それも今すぐに!」


 そそくさと俺達は臭いから逃げる為に左に移動をして聞いていた大神殿の手前に辿り着く。


 「多分無駄だとは思うけど…」


 そう思いながらも扉に手を当て体重を掛けて押し込むが。


 「やっぱり駄目ですか」


 咲田さんが言うにはこの両隣にある塔を先に攻略する必要があるらしい、であればこの門が開かない理由は何かの仕掛けか鍵の存在であるが―。


 「此処に鍵穴っぽいのが二つあるな」


 後者でと予想をする。


 「となれば今此処には用は無いな、塔に行こう」


 今日の予定では片側の近くで安全な場所を探して夜営の準備までしなければならない、近くにゴブリンの溜まり場を発見したのだから場所選びは慎重にしないと。


 「畏まりました、ですが面倒な場所ですね、毎回通る為には鍵が必要になってくるのでしょうか?」


 「多分ね、戻るって事を考えると扉もだけど鍵も勝手に戻って閉まるんでしょ、実際今開いてないしな」


 確かに面倒では有るが一度鍵を入手して持ち帰れば内部の戻る特性により鍵も再び生み出される為、次からはその鍵を使って出入りが出来るだけましだろう。


 先を進む琴音の後を追い左側の塔に着くと扉を押し開く。


 「中は…薄暗いし何も無いですね」


 正確には外周を回る形で階段が配置されている以外は何も無いだ、それ以外には物一つ無い。


 「鍵があるはずなんだよな、見た感じ落ちてもないし、上か」


 確かカバンの中にキャンプ用品のランタンが有ったと思い出し、それを灯して手摺も無い階段を登り次のフロアーに足を踏み込むが、変わらない光景だけが続いて行く。


 「本当にここに鍵があんのかな…」


 徐々に不安になっても来るが、信じて進むしかないと足が疲れる階段を登り詰めて頂上に到達する。


 少し埃っぽい空気と若干酸味の匂いが充満するそのフロアーには物が大量に残されていて、原因はそれだと判断出来るがそれよりも―。


 「この中から鍵を探すのか…」


 布で包まれた物や木箱に仕舞われている物など数があるそれを調べる事を考えると更に疲れが増す感じがする。


 「でもこう言うのちょっとワクワクしませんか?何があるか楽しみです!」


 楽しそうに辺りを見渡し物色しだす琴音の後ろ姿に歳相応の姿を見れた気がして自然と笑みが零れ、彼女に続いて身近に有る物に手を伸ばし自分も物色を開始する。


 まず手を出したのは鍵なんて絶対に関係ないと解る布に包まれた四角い物体、何故それ?と聞かれると困るが何となく気になったのだ。


 結び目を解き丁寧に布をめくると中にあった物は絵であった、しかしその内容は女性の裸体が描かれた、日本で言う所のラフ画で色なども全く付いていない物。


 「よりもによって一発目がこれ引くとか、自分のエロさにびっくりするわ」


 しかし良く出来ているなとその絵を見ていると後頭部に鋭い視線が突き刺さっているのが肌で感じ取れる、これはマズイと違う物を見て回り、木箱の上に鍵が無造作に置かれているのを見つけたのは三時間ほどたった頃だった。


 「随分時間がかかってしまいましたね」


 「そうだな、でも無事見つける事が出来てよかったわ」


 だがこうなって来ると夜営の場所だが自然と今いる塔の内部が一番の安全地帯だろう、これから外の有るかも解らない場所を探すぐらいならここで夜を越した方がいい。


 「琴音、ここで寝るぞ」


 しかし扉や場所をどうしようと考え対策を悩むが、僅かに前から声が聞こえて来る。


 「つ、司さん…我慢…出来なくなっちゃいましたか…?」


 「…ん?」


 声に緊張感と焦燥感が混じった問いかけに何やら言い方がおかしく思えたが、確かに夜営の場所をという意味では間違ってはいない。


 「そうだな、俺はここでしたいと思うが琴音は嫌か?」


 扉は開かない様に物を置く事で塔の内部は完全に安全な場所となる、ならやはりここが一番いいだろう。


 「そそそ、そんな!!まだ、まだ待って下さい!私まだ10歳なんです、それに外では…」


 自身の体を両手で抱き数歩後退った琴音は赤くした顔に汗を滲ませ、必死に何かを懇願しているようだ。


 「いや駄目だ、やっぱりここがいい」


 俺はカバンから横になる為の布を床に引き、その上に寝袋を広げて準備を始めると琴音の口から微かに悲鳴が上がる。


 「ヒ…ヒィ…!」


 突然上がった悲鳴に訳が解らず琴音を見つめるがその視線を受けた彼女は更に俺との距離を開けて行く。


 「いや、おい琴音どうしたんだよ?ほらこっち来いよ」


 広げた寝袋の上を手で叩いて此処にと彼女を呼ぶと、変わらずの彼女はしばらく黙った後涙目になりながらゆっくりと寝袋に腰を下ろして仰向けに横になる。


 「あ、あの…ゆ、ゆっくりでお願いいたします……」


 そう言って顔を両手で隠した彼女に困惑しながらも言われた通りにゆっくりと寝床や食事の準備をした俺がその意味に気づいたのは、全ての準備を終えてどちらが先に寝るかと相談した時で、理解した後には琴音が恥ずかしさから物を投げつけて来るのをひたすら受け止めるのだった。

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