第13話 清華 琴音 6


 銃刀法違反、俺達が持ち帰った物を見ればそこらの人が一斉に警察に電話を掛けて通報するだろう、そう思う程今日の成果は十分な物であったが、問題はこれをどうするかで、帰りに琴音と話した内容はその処分をどうするかと言った話題だったが、結果的な事で言えばそれは杞憂となった。


 ダンジョンから町を守る為に入り口に配置されている関係者が俺達が持ち帰った物を見て、こちらで預かり咲田さんに報告をすると言ってくれた事で荷物が一気に軽くなったのだ、ついでに帰還したと迎えの連絡も入れてくれるらしい。

 

 「あのまま持ち帰ってくれとか言われたら周りの目がきつかっただろうな」


 「そうですね~、この歳で周りから奇妙な目で見られるのは私は嫌です」


 想像でもしたのだろうか、肩を落としてその可愛らしい顔を疲れた表情へと変えながら琴音は俺と並んで社から麓へと階段を下る。


 「迎えに来てくれるとおっしゃっていましたが、来て下さるまでにどれぐらいかかりますかね?」

 

 「咲田さんも仕事があるし、すぐには来れないんじゃないかな…来てなかったらのんびり待とうか」

 

 焦る事は何も無いし、わざわざ俺達の為に迎えに来てくれる事に感謝はしても、待たされたからと不機嫌になるなんて失礼はしたくない。

 

 「はい、そう言うのも悪くないですね」


 とは言えだ、何もせずに待つのはいいとしても、せめて会話は必要だろう、同じ空間にいるだけで息が詰まるなどとは思われたくは無い。


 しかしいざ話題と言われると正直困る、俺自身余り話すのは得意ではないからだ。


 (さて、どうした物か……)


 下る階段の終わりは見えていて、それまでに何か話題をと考えるが引き出しの少ない自分にはハードルが高い。


 (なんとかしないと)


 無い頭を必死に動かして考えていると不意に琴音の声が聞こえるが、考える事に集中していた為聞き逃した。


 「……ぃぃですね」


 「え、何か言った?」


 隣にいる琴音に視線を向けて、話す切っ掛けになるなら今は何でも欲しいと聞き返す。

 

 琴音は俺の質問に答える為に小さく桃色の唇を僅かに開き、不意に下から上がって来る風に乱された髪を手で抑えてほほ笑み。

 

 「沈黙も心地いいですね」

 

 俺が聞き逃したそれを再度言う。


 その言葉の破壊力は凄まじく、グダグダと考えていた物など全てが掻き消えて俺の心をたった一つの思いで塗り替えて行く。


 そしてその思いは腹から胸、喉へと伝わり限界を突破した俺の口から天へと向かって生れ出た。


 「尊い!!!」

 

 解る人には解るだろうこの思いはその言葉の重みを表す様に自然と大声となり、辺りに響き渡らせて唯一無二の思いだと主張する。


 全身を打ち震わせ余韻に身を任せる俺と、呆気に取られて茫然とした琴音が咲田さんに回収されたのはその5分後だった。




****************************************




 無事家に帰りついた俺はリビングで絶賛正座中である。


 その理由としては外で馬鹿な事をしていた為「変な人だと思われるでしょ!」という咲田さんからのお叱りと、帰宅途中の車の中でスマホを使いぐぐった琴音が言葉の意味を理解した事で恥ずかしさから真っ赤になり口を聞いてくれなくなったからだ。


 しかし後悔は無い、あの思いはあの時あの場所で言う事に意味があるのだ。


 「それで? 今日はどうだったの、向こうの人から剣やらダガーやらを結構持って帰ってきたと聞いたけど」

 

 これ以上この件に関しては付き合う気はないと会話を変えて来た咲田さんだが、やはりある程度の事はあの場にいた関係者が話してくれていたのか、武器の持ち帰りは把握していた。

 

 しかし魔石類に関しての報告は俺達からする必要があるので、まだ口を聞いてくれない琴音の分を含めて今回回収できた数が21個だと告げる。

 

 行の数が16個で帰りで倒した物が5個だ、日帰りで稼いだにしては十分な結果ではなかろうか?


 「ゴブリンの物だけど武器が多数に魔石が21か、二人とも日帰りにしては凄いわね、探索者になりたての子達だと日に10個稼いで来れるかどうかなのよ、その倍と考えると十分すぎるでしょう、魔石の用途は決めてるの?」


 ダンジョンに入る前だととにかく安全圏までの回収をとしか考えていなかった、それが余裕を持てる程に手に入れる事が出来たなら咲田さんに渡すのもいいだろう。


 「琴音はどう思う?」


 そろそろいいんじゃないかと魔石を必要とする琴音に話を振ると、腕を組んで一瞬ジトっとした目で俺を見る。

 

 「昨日の3つの内まだ2つは残っているので、その分を含めた10個以外はお渡しして大丈夫かと思います」

 

 「わかったわ、ならその13個は私の方でちゃんと処理しとくわね、それと貴方達にはこれを持ってて欲しいの」

 

 俺が差し出した魔石と交換して咲田さんが手に乗せたのはぱっと見た感じ携帯にも見えるデバイスだ。


 「そのデバイスは触ってたら解ると思うけど、これから先野崎以外のダンジョンに入る際にSチルとペアの身分証になってるわ、ちなみにだけどペアとして登録されているランキングも表示されて、貴方達は最下位の12万3000位から今回の探索で11万9872位に上がったわよ」


 「いや、そんな親指立てて上がったと言われても…」


 ランキングに何の意味があるのか正直解らないのだ、琴音と組む前はそんなに数がいるんだと思った程度で自分には関係無いと気にしてこなかったのが原因でもあるが。


 「あ~説明して無かったか、えっとね、ランキングはSチルとペアの強さを表してるのは何となく解ると思うんだけど、上位になればなるほど入れるダンジョンが増えて勿論報酬もそれに比例して上がるの、例えば新しくダンジョンが表れた時に下位の子達を行かせるのは危険だから上位の子に任せたり、国からの要請で行ってもらったりするかな、その基準にしてるのがランキングで、1000位以内の子には順位と共に通り名も載ってるわ、つまり実績もあり滅茶苦茶強い子ですよ!と世界に示せるのがランキングね」


 彼女が一息つきお茶を飲んだ事である程度の説明が終わったと判断したが、どう考えても今の俺達にはほとんど関係の無い話で意味を見出せない、気にしなくてもいいだろう。


 「あ~それとね、二人とも明日は休みにして頂戴!」


 脈絡もなく出た要望にデバイスを弄っていた俺と、今だ組んだ腕を放さずジト目の琴音は首を傾げて疑問を浮かべる。


 「今日の成果からして結構戦ったでしょ? なら刀の研ぎと手入れを職人に頼んだ方がいいわ、刀って武器は達人でもなければすぐに刃は掛けるし切れ味も落ちる、二人の夜霞と明霞はダンジョンで発見された鉱石で作った一品だって事は言ったと思うけど、その恩恵で切れ味や耐久事態が上がってる、それでも戦い始めた子が使った武器だからそろそろ一度見てもらいましょう」


 「そうですね、わかりました」


 急に降ってわいた休みに何をしようかと思考を巡らせてまだジト目の琴音に顔を向けるが、視線が合ったとたん顔を反らし頬を膨らませ何かを抗議しているようだ。


 そういえばまだ謝ってなかったか?と思いもするがあの件に関しては俺に叫ばせる原因を作った琴音も悪い。

 

 尊いはすべてにおいて正義なのだと、隣に座り拳大ほどの空間が空く距離で膨らませた琴音の頬を突っついて遊び、反撃とばかりに肩をバシバシと叩かれながら今日の俺達はふざけ合う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る