第12話 荒廃都市エプルーヴ 3
今回用意した昼食はこれまた咲田さんが作ってくれた物で、手軽に食べれて胃に溜まるとサンドイッチが用意されていた、飲み物はただのお茶でパン系を食べる時にはジュースか紅茶が欲しくなる俺は今頃ミスったと考える。
対して琴音はそんなものは関係ないと頬を膨らませて頬張って行く、お嬢様ならもうちょっと優雅に食べそうだが、それも今更か。
「そろそろ行こうか」
休息は十分取れたと俺は先を促し、扉を開けて外に出て再び進んで行く。
「あれは、来たぞ琴音」
眼前に見えるはゴブリンが二体、その手には武器を持ち俺達を向こうも見つけた事で走って来る。
先ほどの室内で邂逅した個体とは異なり手には剣とダガーを持ち、一見丸腰に見えた俺達にニタニタとした下卑た笑みを浮かべながら余裕をかます。
「桜花流・浜木綿」
しかし琴音の放った一撃で馬鹿にしていた余裕は瞬時に霧散した、奴らからすれば丸腰に見えた琴音であるが当然そんな事は無い。
帯刀している刀を抜き一瞬で懐に入り上半身に対し斜めに明霞を振るった技はゴブリンを斬るのではなく吹き飛ばし、その威力を持って塵へと変える。
「貴方達に送る言葉はどこか遠くへです」
隣にいた者が瞬時に吹き飛び消え去った、その光景を見せられたゴブリンは恐怖から後退って琴音と距離を取る。
「教養の無い俺は送る言葉は無い」
下がったゴブリンの後ろから夜霞を振り背中に一撃を与え、痛みから斬られたと理解し振り返った所を再び斬る事で塵にした。
「何か言った方がいいのかなって思ったんだけど、自分で言ってて悲しくなるな」
高校生である自分が年下の少女に知識で負けている、勿論人には得意分野があり、琴音の場合は桜花流の技がその知識を得るに至ったのだろうと予想は出来るが、いざという時に何も出てこないのは何故か寂しい。
「そ、そんな事ないですよ! さぁ次に行きましょう!」
慰めの言葉が見つからなかったんだなと解る誤魔化しに倣い、倒した事で得た魔石と価値があるかも解らない武器を回収して尚も進むが少しして又しても問題に直面する。
「またこのパターンか、なんで脇道があるんだよ…」
進んだ先で見えたのは現代日本で言う処ののT字路だ。
左右に別れていたのはどちらからでも進む事が出来る、その意味で一本道だと解釈出来るが、ここに至っては完全に違う。
最奥にあると聞く大神殿へはこのまま進んだ先の方角で大きさから何となくあれかな?と思われる屋根も見えている。
「行き止まりだから行く必要は無い、とかですかね?」
困った顔で疑問を浮かべる琴音の言う通りその可能性もあるかと考えるが、問題はどちらに進むか、だ。
「朽ちて何もないと見えた民家にも壁画があったし、別の物があるかも…行ってみよう」
行かずに無意味だと捨て去るよりは見て確認をした方が後々気にならないだろうという思いもあり、進行方向から左に折れて脇道を選ぶ。
「あ、またゴブリンですよ司さん」
しばらく代わり映えのしない荒れた道を進むと琴音は前を指し敵の存在を教えてくれたがその敵の様子がなにやらおかしい。
「数は5匹で……何やってるんだあれ」
「見た所踊ってますね」
「だよな、踊ってるよな」
まだ若干距離が有る為はっきりと認識が出来なかったのと、意味が解らないと脳が考える事を拒否した結果の問いかけに、琴音は淡々と事実を述べる。
「不意打ちしますか?」
今が絶好の機会だとでも言いたげな琴音だがその不意打ちがそもそも難しい。
「隠れて近づくってのが出来ないからな~、このまま行くしかないだろう」
道脇にある倒壊した建物の間を縫って行く選択肢もあるかもしれないが、初めてダンジョンに来た時にそこからゾンビが出て来たのを考えるとその選択の方が危険だと思えた。
「解りました、では初撃は浜木綿で巻き込んで、そのまま引き付けますから司さんはそこをお願いしてもいいですか?」
「了解した」
戦いに関しては喧嘩程度しかした事が無い俺よりも、武術を習い習得している琴音の方が経験からして上で有ろう、そこに加えて身体能力が向上もしているのだ。
「では行きます」
真剣な顔つきでそう言って先行する琴音の後を追って走って近づくと、流石に正面から来た事で踊っていた奴らも気が付き、辺りは更に騒がしさを増す。
「桜花流・浜木綿」
走りながらも聞こえた可愛らしい声と共に前を走る琴音の姿が掻き消え、それぞれ武器を持つゴブリンの先頭にいた個体に対してその技を放つ。
「ギィヤァァァァ」
声に反したその技の威力は斬られた個体を特性ゆえか吹き飛しながら絶叫させ、後方にいる個体を巻き込んで地を転がせる。
「一撃で3体とかマジか!?」
初撃で引き付けるとは聞かされたがこれはそれ以上の状態ではないだろうか。
「桜花流・ブリオニア」
倒れたゴブリンに更に追い打ちを掛けて完全に仕留める琴音だがその役割である引き付けは成功していて、残りの2体もが間抜けにも後ろ姿を俺に晒す。
「気持ちは解るがそれは駄目だぞ」
余りにも無防備となった2体の内片側の頭部を縦に切り裂いて倒し、もう片側の武器を持つ腕を斬り飛ばし。
「ギュァァ」
痛みから声を上げて斬られた腕を抑えるゴブリンにそのまま夜霞を振り首を落とす。
「ふぅ~」
終わったと息を吐き引き付け役を担った琴音に視線を向けると、ちょうど3体目を塵にと帰した処だった。
「お疲れ様、見てた感じ怪我はなさそうだったけど大丈夫?」
「はい、問題ありませんよ」
なら良かったと転がった魔石とゴブリンが持っていた武器を回収する。
「司さんそろそろ荷物が…」
俺が倒した個体の魔石を回収していると、眉を寄せて困った顔の琴音からカバンがそろそろ一杯だと告げて来る、確かに拾った剣なども荷物としては嵩張り邪魔となって来ていたのだ。
「どうするかな…」
この先にまだ有るであろう場所と、帰りでの戦闘も考えてスマホを取り出し時間を見ると時刻はそろそろ夕方へと先掛かる頃合いだ。
「琴音、今日は引き上げよう」
「え、でもこの先は見なくていいんですか?」
艶のある黒髪を揺らせて顔を傾げる琴音の疑問は当然で、俺自身も気にはなる、しかし荷物と時間を考えれば無理はしたくは無い。
「あぁ、二度手間にまるかも知れないけどまた出直そう、ダンジョンから出る頃には夜になってるだろうし帰ろう、咲田さんが待ってるぞ」
「そうですね、心配かけちゃ悪いです! 帰りましょう司さん!」
両手を後ろに回して体を斜めにしながら琴音は笑顔で了承する、その仕草を見ながらゴブリンを吹っ飛ばしたとは思えないなと、可愛らしさに感嘆して俺達は待つ人がいる家へと今日は帰路に就く。
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