第11話 荒廃都市エプルーヴ 2


 この階層は基本一本道、そう聞いていたはずが俺達の前には左右に分かれた道がある、破壊神琴音の有り余る力で結局はぶっ壊れた門を閉じる扉の先で、それを見つけるに至ったのだが問題はどちらに進むかだ。

 

 「琴音はどっちがいいと思う?」

 

 迷った時は右に行けと漫画で読んだ事があるのを覚えている、しかしあれも結局は二分の一の確率でしかない、駄目な時は戻ればいいだけだしそこまで気にしなくてもいいだろう。

 

 「そう言えば迷宮で使う左手の法則とかもあったよな」

 

 あれは確か壁に手を付けて左にのみ移動するやり方だったはず。


 「いやでもあれには――。」


 例外が存在する、例えば落とし穴があればその場所を迂回するしかなくその法則が途中で使えなくなる、それに目指すゴールが中心地にあった場合も意味がなかったはず。

  

 「流石に落とし穴もないだろうし、大神殿の奥に螺旋階段があるって事も聞いてるから大丈夫だろう」

 

 となればもうどっちでもいいかぁ~。


 「悪かったって琴音、そろそろ許してくれよ」


 さっきから問いかけをするも俺の独り言になっている、その理由は俺がふざけた結果なのだが先に進みたいので何とかしたい。


 「小学生の女子に遠まわしでとは言え筋肉ゴリラだと言うのはどうかと思うのですよ」

 

 頬を膨らませて明後日の方向を見ながら件の琴音は抗議の声を上げている。

 

 「あ~うん、そうだな俺が悪かった」


 (そこまでは言ってないんだが)


 「はぁ~…私もどちらでも構いませんけど、あえて選ぶなら左ですかね」

 

 仕方が無いな~とため息を吐き会話を再開してくれた。

 

 「お? 理由を聞いても?」

 

 「そうですね~、法則があるのは私も漫画で知っています、右を選ぶと安全ですよ~と言われるなら逆に左の方が良さそうに思えるからですね」


 「なるほどね、じゃ左に行こうか」


 疑り深いのか天邪鬼なのか、10歳の少女なら「右の方がいいんでしょう?」と素直にそっちに行きそうな物だが、その考えもお嬢様として育てられて周りに対する警戒を教え込まれた結果なのかもしれない。


 「ここも建物が崩れていますね」


 「門の意味がないな」

 

 門とは外と内を隔てる為に設けられたいわば壁だ、この都市自体荒廃してモンスターなんてとんでも生物がうろついているのだから今更ではある。


 「あ! 見て下さい、建物が残っていますよ!」


 声色を上げて手で指した琴音の先にはまだ距離が有るが、倒壊を免れた建物が見えていた。


 (外壁はボロボロだし所々凹みも見える、残っているだけでも凄いか)


 「どうしますか?」


 琴音から尋ねられたその意味は恐らく無視をするのか調べるか、だと予想する。

 

 今現在俺達が持つ情報は咲田さんから聞きいた事がすべてであり、それ以外に自分達で得た物は何もない、ダンジョンについて少しでも知る事が出来る機会ならそれを生かしたい。


 「入ろう、この状態だし何も残ってないと思うけど気になるしな」


 後でやっぱり行けばよかったと後悔なんかもしたくはない。


 「解りました、では開けますね」


 掛け合いをする間にも着いた民家の壁に身を潜めて中の様子を窺い、玄関である扉をゆっくりと押し開く。

 

 「何も居ませんね」


 我先にと先行する琴音の度胸に驚きながら、廃れた民家の中に入ると目に映るのは床に散らばるかつては使われていたので有ろう食器類の破片だ。

 風化する事によって誂われたテーブルや椅子などは原型を僅かに留めているだけで、支える足はとうに折れて全体的に腐りきりっている。

 

 この有様では得られる物は何も無いと踵を返すが、僅かに雑音の混じる音がする。


 「まて琴音、何か聞こえる」


 人差し指を口に当てて静かにと注意を促した事で、動きを止めた俺達の耳に濡れた素足で人が歩いている、そう思わせる奇妙な音が大きさを増し、聞き耳を立てて発生源を探ると倒れたて朽ちた家具が視界に入り、慎重に近づくと下へと向かう段差が見て取れた。

 

 (これは…階段か、この民家地下もあったのか…)

 

 視点の悪さから発見出来ていなかった地下が音の発生源であるのは間違いない。

 

 その証拠に次第に響く物が大きくなって緑色をした二足歩行をする物体が表れる。

 

「グルゥアアア!」

 

 登場と共に俺達を見つけたそれは雄叫びを上げて、身近に散乱する物を手に取り何度も投げつけた。


 「ちょ! あっぶな!!」


 投げて来る中には先の尖った鋭利な物もあり、其れが顔の横を擦れて飛ぶ。


 「あ~もう! なんだ此奴!」


 飛んでくる物を避けながら尚も物を投げつけて来る物体を見ると、その容姿や色合いからゴブリンではないかと思いいたる。

 

 「いい加減にして下さい! 桜花流・ブリオニア」


 琴音は発した言葉と共にゴブリンの両足を斬り払い、地面に転がった所で首を斬り落として塵へと帰す。

 

 「貴方に贈る言葉は拒絶です」


 無慈悲な一撃と言葉を聞くがうるさかったし、うっとおしかったから仕方ないと斬られたゴブリンを哀れに思う。


 「司さん地下はどうされますか?」


 「地下の探索か……」


 ゴブリンが登って来た事を考えると下にはまだ居る可能性もあるが、俺達が扱う武器は横に対してはある程度の空間が必要だが縦や突きなど、取れる手段は他にもある。


 「行って見ようか、琴音は後方をよろしくな」


 「畏まりました、ですが私が先でなくていいのですか?」


 身体能力や自身の持つ技術を比較すれば圧倒的に琴音の方が俺に勝る、だからこそ死角になりやすく、察知し難い後方を頼みたいと伝えて地下へと階段を下りる。


 「思ったより広く無いな」


 降りた先の空間は畳でいう処の約六畳、薄暗く明かりになるものは何もない場所で床にはここでも物が散乱している、先ほどのゴブリンが散らかしたのだろう。


 「床に転がってる物も気になるけど、今はやっぱりこれかな―。」


 「絵…壁画ですね」


 地下の壁、その表面には汚れや風化で見にくくはあるがしっかりと全面に絵が描かれている。


 その内容を理解してみようと順番に見て行くが、いまいち解りづらい。


 「えっと、燃えている町ですか…それとゴブリン?」


 「そうだな、後は歪みっぽい穴から何かが出て来てる所かな…?」


 しばらく留まり他にもと目を凝らすが読み取れそうな情報は他には無い。


 「もしかして荒廃した原因を書いたのかな、予想出来るのはそれぐらいか」


 「この後はどうします? 先に進みますか?」


 区切りを付けたと判断した琴音がこの先の予定を聞いて来る、それもいいかと思い何となくスマホで時間を確認すると時刻はちょうど昼近く、休憩するにはちょうどいい場所でもあるだろう。

 

 「上で休憩しよう、中の安全は確保出来たし急ぐ事もないからな」


 「解りました、実は…動いたからお腹が減っていたんです」


 それならちょうど良かったと、はにかんだ琴音を見ながら上へと戻り、外へと続く扉を閉めて一旦俺達は民家で休息を取る。


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