第10話 荒廃都市エプルーヴ


 三人でおこなった話し合いの後は親ぼくを深めよう! と言った咲田さんの提案により夕食を作る所から片付けまでを皆で協力して済ませて明日の為にと早めに就寝するに至った。


 そして今日の行動をどうするか、その相談を始めたのは家庭的な一面を朝食を作る事で見せて来た咲田さんの手料理を食べている時だった。


 今日の曜日は木曜日、となると勿論学校があるわけだが俺達の目標であり、出来れば早めに集めておきたい魔石の回収とどちらを優先させるべきかその判断に迷ったのだ。


 (出席日数や単位は問題ない、忘れてたけど昨日も結局休んだしな)


 となれば出て来る問題は勉強の方でもっと言えばテストだ、そこさえ乗り越えてしまえば留年ギリギリでも進級は出来る。


 「琴音の学校は今日からですか?」


 食後のお茶を飲みながら思考を巡らせて段取りを組んで行く。


 「まだよ、予定では月曜日からになるわ、手続きはもう済んでるけど学校側にも受け入れの準備が必要なのよ、所で司君は学校に行かないの?」


 「はい、今週は休もうと思ってます」


 その理由としては日数や単位の問題はクリアー出来ているから今は手元に二つしな無い魔石の回収を優先させてほしいと伝える。


 「そうね、進級出来るならいいんじゃないかしら? なら探索に行くって事でいいのよね、家の事はやっておくから二人ともちゃんと帰って来てね」


 心配をしてくれた彼女に解りましたと伝えて許可が貰えたしと早速準備に入るが持って行くものはそれほどない。


 探索するに当たってある程度の食糧や飲み物は勿論持って行くが、多すぎる荷物は戦う時に動きを制限させて二人では余計に危ないという助言を咲田さんから受けたからだ。

 持ち運ぶ荷物はカバンに入る程度に抑えて俺達はダンジョンのある野崎に車で送ってもらい、足がだるくなる階段を登り終えて再び内部に突入する。


 昨日来たばかりである中の街並みには変化は何も無かったが、一つ違いがありゾンビが道に複数体出てきていた。


 「行くよ」


 琴音に合図を出し足を進めると向こうも俺達の気配に気づいたのかこっちへ向かって歩いてくる、接敵するまでの時間はすぐだ、そう思い刀の柄に手を添えてタイミングを計って慣れない夜霞で切り払う。


 「そりゃ!」


 締まらない声を出しながら振るった一刀は身体を斜めに斬り裂くが、斬れたのはボロボロになった服と腐臭の漂う肉だけで一撃で倒すには至らなかった。


 「桜花流・杜若」


 透き通る声と共に俺の後ろから前に出たのは勿論琴音で、手に持つ抜かれた刃は青紫色をした花の幻覚を見せながら首に刃を食い込ませて行き通り過ぎる。


 「え、何今の花!?」


 見えるはずのない花が見えた事に驚き、斬られたゾンビの首に視線を向けると頭はまだ繋がっている。


 「え、あれ?」


 確かに首を斬ったはずだと凝視するが変化は見えずゾンビは動かずに佇み、一切の音を出す事無く首から身体を塵に変えて消えて魔石が音を立てて地に落ちた。


 「杜若の花言葉は幸運は必ず訪れる、理由は解りませんがゾンビになった貴方達の来世を私はそう祈っています」


 抜いた刃を鞘に戻して言った琴音はそのまま軽く瞑目した後前を見る。

 

 「行きましょう司さん、昨日は恥ずかしい物を見せてしまいましたがもう大丈夫です」


 「か、かっけぇぇ~」


 女子に、しかも少女に掛ける言葉ではないのかも知れないが俺の彼女に対する感想はその一言に尽きた。


 その後も進む足取りは変わる事無く、向かって来るゾンビを琴音が杜若で有ろう技で仕留めて行くが、対して俺はと言えば何度も斬り付けて何とか倒していて、無駄に傷つけている様に見える為何故か申し訳なくなる。


 「さてようやく門まで来れたな」


 入口から門までの短いスパンであるがその間で倒したゾンビの魔石でとりあえず7個は回収出来た。


 「そうですね、でも司さんこの門開くのですかね?」


 着くまでに見えてはいたが、俺達の前にあるたどり着いた門は木で誂えた両開きの扉が所々表面に穴が開いていながらも閉ざされている。

  

 このダンジョンには何組かがすでに探索もしていて聞かされたエプルーヴに関する情報では先の階層に進める程であったはずだ。


 (なんで閉じてんだ?)


 誰かがわざわざ閉じる手間を掛けたとも思えないが、閉じている物は仕方がない。


 「とりあえず押してみるか」


 一旦周りを見渡して敵がいない事を確認し、二人で扉に手を付けて押し込むが、力加減を間違えてしまったのか琴音側の扉だけが弾け飛んだのではないかと思う程の勢いで木くずを巻き上げながら開いていた。 


 「きゃぁ! え、えっと…あの……」


 忙しなく両手を動かしてわざとじゃないと言いたげな琴音だが、恐らくダンジョンの中では身体能力や力が上がってしまう事にまだ慣れていないのだろう。


 「とりあえず、秘孔を突いては出来ないみたいだけど、扉は爆散させる事が出来たな」


 顔と耳を赤くした琴音は必死に両手で顔を隠しその場に思わずしゃがみ込んでいた。


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